第0話 神様との会話
今回は主人公視点です。次回からは第三者視点になると思います。
あと、主人公の性格が分かりづらいですが、騙すのが好きなので常に本性を隠すようにしているとお考えください。
「…………ろ……」
……何だ? 僕は今どうなっている?
「お……ろ……」
最後の記憶は……何をしてたんだっけ?
「起きろ……!」
確か、急に目眩がして……ここはどこだ?
「起きろっつってんだろ!! 桐谷深夜!!」
「うわあっ!?」
急に怒鳴られたので、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
だが、おかげで目が覚めた。
立ち上がって周囲を見渡すが、どうやら僕がいるのは辺り一面真っ白な場所のようだ。
遠くを見ても、何もない。何も存在していない。
「はあっ!? どうなってるんだよこれ!?」
目が覚めたら突然そんな場所にいたら、誰だって驚くだろう。僕も勿論驚いたが、ここで取り乱しても無意味だと自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせた。
「訳がわからない……。僕は死んだのか……?」
何となく、アニメや小説でよくある死後の世界っぽかったので、そう呟いた。
「いいや、お前は死んではいねえよ」
その問いに答えたのは、先程僕を起こした人物だった。いや、人物と言っていいのかは知らないが……。
「どうして神様がここに? というか、ここは一体何処なんですか?」
そう、この人は(面倒くさいから人でいいや)神様なのだ。で、なぜ一介の高校生である僕が神様のことを知っているかと言うと……。
「ああ、あの時の約束……いや、契約を果たしてもらおうと思ってな」
「……その時が来た、ってことですか……」
ーー僕が小学生の時に、僕は大きな事故に遭った。何歳の時かは正確には憶えてない。確かに大きな事故で、重傷も負ったが、あまり昔のことには拘らない性質だ。
だがそれでも、決して忘れていなかったことがある。それが、この神様との……契約だ。
僕はあの時、死ぬはずだった。それは病院に見舞いに来てくれた人たちの様子からも明らかだった。
でも、僕は死ななかった。当然、皆は驚いていた。
だが、驚きは僕の方が大きかっただろう。何せ、神様が夢の中に現れて、僕を助けてくれると言ったのだから……そして、彼は僕を助けてくれた。
……助ける代わりに、僕がもう少し大きくなったら、彼の言うことを一つだけ聞くという条件で。
ただの夢だったのかもしれない。普通はそう考えるものだが、僕はただの夢だとは思わなかった。何故ならーー
『おい、あの話、忘れてないよな?』
それから毎日のように夢に現れた……ということはさすがに無かったが、それでも数ヶ月単位で夢に現れたのだ。まあ、間隔が長かったのでそこまで疎ましくは思わなかったが。
神様って暇なのかな? そう思ってある日聞いてみると、
『俺は他の神と比べて、そこそこ力はあるが、あまり忙しくないからな』
……と言っていた。僕はその時は気付かなかったけど、忙しくない=仕事がないってことにはならないんだよね。つまりこの神様は……いや、これ以上はやめておこう。
「なんかお前、失礼なこと考えてなかったか?」
「や、ヤダナー。ソンナコトアルワケナイジャナイデスカー」
「考えてたんだな……。まあいい、それより、あの時のことは憶えているよな?」
「忘れてる訳ないじゃないですか。おかげさまで普通の夢にも貴方が出るようになりましたよ」
「ハハハ、それは良かったじゃねえか」
良くない、と心の中で否定する。本当にこの人は(人じゃないけど)もう……。
「さて、ようやく本題に入るが……俺がお前を助けた理由は、もう話したよな?」
「僕が、普通の人間と比べて魔力が高くて、後々貴方の役に立ちそうだったから……ですよね?」
そう、僕が助けてもらえたのは、たったそれだけの理由なのだ。魔力が高い……たったそれだけ。
神様は、地球人はほぼ全員が高い魔力を有しているが、使い方を知らないから持て余してると言っていたが、使えもしない力のおかげで助けてもらったというのは、何か釈然としない……と考えていたのは、昔の話だ。勿論、今でも思うところはあるが。
まあ、それは置いといて、僕の魔力は地球人の中では上の下くらいだそうだ。ちなみに、中の上以上は殆どいないらしい。
「まあ、本音を言うと生かしておいた方が面白そうだと思っただけなんだが」
「……」
本当にこの人は……。
「そう怒るなよ……。で、お前の魔力なら、大抵の世界なら無双できるはずだ」
「……?」
え……? 何を言ってるんだ?
「それでな? 丁度、お前にピッタリな世界が……「ちょっと待って」……ん? 何だよ」
わかっている。彼が何を言っているのかは予想できる。だがそれでも、確認せずにはいられなかった。
「貴方は……僕を異世界に飛ばすつもりなんですか?」
「ああ? 言ってなかったか?」
「……」
一言も言ってねえよ!!!
「お前をあの世界に転移させたら面白そうだからな!」
ふざけんな!!!
「何だ? お前は嫌なのか? 異世界召喚」
嫌ではないけど、そんな突然に言われると困る。
というか、残された家族や友人にも迷惑と心配をかけるに違いないのだ。
簡単に決められることではない。ないのだけれど……
『その時の俺の要求が、たとえどれだけ理不尽でも、決して断ることは許さねえ……いいな?』
……とりあえず、気になったことがあるので聞いてみよう。
「召喚……なんですか?」
「あ、いや、転移……だな……」
「……」
……怪しい。
「……まあ、後々わかることだろうから言っておくが、今とある世界のとある王国で勇者召喚をしようとしているんだよ」
「まさか、その勇者を僕にするってこと? 僕は勇者になんてなりたくないよ?」
僕は勇者なんて、そんな面倒な存在になるのは死んでも嫌だと思っている。……さすがに死んでもは言い過ぎか。
「安心しろ。 俺もお前を勇者にするつもりはない」
何を言ってるんだ?
「どういう意味ですか?」
「下手に異世界転移とかすると、他の神が煩いんだよ。……だが、召喚されるはずだった勇者が、召喚する側の不手際で、別の場所に召喚されるのは……別に転移でもなんでもないよな?」
ああ、成る程。ピッタリってのはそういうことか……。
「丁度、不手際が生じる召喚に、僕を選んだってことですか……」
確かにそうすれば、僕は勇者にならないし、僕を勇者として推薦したのであろう彼も、他の神に小言を言われなくて済むということか。……ん? 神が小言を言うってことはヤバイことなんじゃ……。
いや、僕の考えすぎだな、うん。
「いやー、お前の魔力が高かったおかげで、普段顔を出さない俺がお前を勇者に勧めても、大して疑われなかったぜ!」
「……で、要するに貴方は、僕を異世界に飛ばして、その様子を観察して楽しみたいと?」
「そういうことだ。俺を充分満足させられたら、お前を元の世界に返してやるからな」
「それはまたハードルの高い……ま、精々頑張りますよ」
気がつくと、体が透けてきていた。……ってあれ?もう行くの?
前を見ると、神様がニヤニヤ笑っている。
召喚の直前に話しかけてきたのか……ったく……。
そういえば、僕が転移すれば面白そうってのはどういう意味だったんだ? まあ、向こうに行けばわかることか……。
思ったより長くなってしまった……。