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7 正義の味方は定休日

 僕が死んでしまったら、何か変わることはあるだろうか。


 家族とか友達とか、僕のことを知る一部の人間は悲しむかもしれない。


 けれどそこまでだ。


 僕が生きようが死のうが、世紀の大発見はあるだろうし、明日の天気に影響はないだろう。





「やっちまえ、おらぁ!」


 だからといってこんな訳の分からない世界に片足ツッコんだまま死ぬのはごめんだ。


「馬鹿どけっ」


 タクトの声。


 体をどんと押しのけられて、ようやく僕はまだ自分が死んでないことを思い出した。


「逃げることも出来ないのか、テメーは」


「や、これ逃げるってどうやって。ひっ」


 右肩に振り下ろされそうなナイフをギリギリのところでかわした僕は、バクバクする心臓を抑え、次の相手の攻撃に集中した。


 無理、もう無理。絶対無理。


 隣ではアクション俳優のように三人の相手を捌いている。がこっちは逃げるのがやっとだ。敵の狙いが彼に集中しているため、自分はこの一人をやり過ごせばいいのが幸いだった。


 素直な相手でよかった。僕は真っ直ぐ突っ込んでくる相手を見てそう思う。


 狡猾な相手ならば弱いところを集中的に狙うだろうに。


 例えば僕や由宇さんのような。





「ん?」





 一瞬、心に引っかかりを覚えた。そういえば彼女の姿が見えないな。それに敵も。


 相手は五人いたはずだった。今、タクトが三人を相手にして、僕がこの一人を相手にしている。すると残り一人はどこに。


 しかしそれ以上の思考は相手の攻撃が許さなかった。


ざくっ


「戦いもせず、ちょこまかと動きやがって」


「だって動かなかったら殺されちゃうじゃないですか……」


 壊れかけの木箱を盾にした僕は、その下から相手の様子を確認する。うわあ、怖い顔。


「自分の運命を呪うんだな」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフ。こんな時は大体、正義の味方がやってくるものだけどなぁ。


 しかし正義の味方はやってこない。定休日だ。


 彼の手が木箱に刺さるナイフに伸びていく。それを引き抜いたら最後、次の一振りは僕に向かうのだろう。


 半ば絶望していた矢先、相手の動きが止まった。


「ぐっ」


 どうやらナイフは想像以上にしっかりと木箱に刺さっていたらしい。必死に引き抜こうとする男。木箱を持つ僕にもその力がはっきり伝わる。てか、ナイフに対する執着心すごいな。


 けれどおかげで一瞬の隙が生まれた。


 そんなに引き抜きたいのでしたらご自由にどうぞ。


 僕は力の伝わるままに手を放した。


「う、お、おい」


 彼は見事にバランスを崩した。


「失礼しますねっと」


 僕はその脇すり抜けて、背後に回る。


 そして背中をワンタッチ。


「僕は、ただ、家に帰りたいだけなんですよ」


 男のよろけるその先には扉が口を開けていた。外に繋がる甲板への扉。


バタン ガチャン


 彼がその扉をくぐるのを確認すると、僕は急いで鍵をかけた。





 これでとりあえず一人。


 さてこの後はどうするか。


 逃げ道はもう無い。


 先ほど鍵をかけたばかりの扉を見つめながら僕は考えた。


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