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6 「てへへ」はヒロインだから許される


 船の入り口まで到達するとすぐに見知った人影があった。


 よかった。そんなに奥まで行ってなかったみたいだ。


「由宇さん」


「あ、森田さん。やっほー」


 やっほーじゃないです。


 ゆるく手を振り答える彼女に僕は戸惑った。


「自分の命が大切じゃないんですか」


「んー」


 僕なら即答する。命が大切だと。


 しかし彼女は違うらしい。


「命は一つ、この時この瞬間のバトルシーンは今だけ。どちらも唯一無二の存在なので選べないよね」


 お願いだから自分の命をもっと大切にして欲しいものだ。


 いかん。このままじゃ相手のペースにはまってしまう。


 僕は頭を切り替えた。


「行きますよ」


「戦闘の中に?」


「外にです!」


 間違えてもこれ以上先になんか進むものか。ここまで来てしまったのだって、自分で自分を疑いたくなるくらいなんだから。


「ほら早くしましょう」


 僕は後ろを振り返る。彼女はさっきの場所からほとんど動いていなかった。


 なんなんだ。なんでこの人、ちっとも動かないんだ。


「そんなに戦闘シーンが見たいんですか?」


「いやー違うんだよぉ」


 そう言ってようやくトボトボとゆっくり後ろを付いてくる。


「なんかさー」


「なんです」


「こういうタイミングで逃げる時って、敵に見つかるフラグだよね」


 そんな事を気にしていたのか。


 思わずため息が出てしまった。


 いちいち物事にお決まりのフラグが立つ、そんなのは物語の主人公とその周辺だけであって、凡人と凡人しかいないこの場には全く無縁な話なのだ。


「そういうのはいいですからさっさと逃げ……」


ガッシャーン


 心臓が跳ね上がった。


 突然船の奥から聞こえたガラスのような物が割れる音。ばたばたばたと誰かが走っている。そしてその音は次第に大きくなっていく。


 いや、待って。うっそだぁー。


バン


 勢いよくこの部屋の扉が開いた。



「最悪だ」


「こういう展開待ってましたぁ」


「テメーら、こんなところで何してるんだよ」


 どうもお久しぶりです。


 金色の短髪に鋭い眼。やや露出度の高い服。ガラの悪いこの態度。


 僕たちの目の前に現れたのは、彼で間違いなかった。


「わーい、たっくんだー」


「うっせ、きめえ。たっくんじゃねえ、俺はタクトだ!」


「たっくん」


「黙れ! 逃げろっつったの聞いてなかったのかよ」


「てへへ、来ちゃった」


「来ちゃったじゃねえよ」


 全くだ。


 そんなドジッ子天然キャラみたいなノリで言ったって、何のドラマも生まれない。


「あ~くそ。てめえらには言うことがたくさんあるけど、今はそれどころじゃねえ」


 鋭い視線が僕に刺さった。


 そうですよね。


 僕は改めて周囲を見回す。


「船をこんなにしやがって。ただじゃすまねえからな!」


 そう言ってドスのきいた声と共に男達はナイフを強く握りしめた。



 これ、死ぬかもしれない。



 僕たちの周りには、五人くらいの男達がそれぞれ武器を構えてこちらを狙っていた。


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