52 疑わしきものは?
金銀財宝。それはとある昔話で鬼を退治した際に入手した戦利品。またある時は、スズメを助けたお礼に貰ったつづらの中身。
一体何が言いたいかって、そんなものが実際に目の前に現れた日には、布団の中でまだ夢を見ているか、日本昔話の読みすぎによる幻覚症状が現れたのか、いずれかの状態を疑うということだ。そしてその場合、やるべきことはただ一つ。
一刻も早く精神科を受診する。
まあこの世界に精神科があるかは知らないけれど。
「……あげる」
「これはどうもありがっ……いや、いやいや!」
慣れというのは恐ろしい。「あげる」と言われ、反射的に感謝を述べてしまった。
危うく何事も無かったかのように、さらりとこの金品をものの数秒で受領してしまうところだった。
「そうじゃなくて!」
ぼんやりしていればそのまま「はい」と答えてしまいそうな自分を制止するように、僕は声をあげた。
さっきまで僕らを道連れにしようとした少女が、急に手のひらを返したように、山盛りの財宝をくれるというのだ。とりあえず、まず一度はツッコまなければならないだろう。
「おかしい、どう考えてもおかしい!」
首を左右に振る僕を、少女がじっと観察する。
「いらない?」
「いや、そういう訳じゃなく!」
そこは即答で否定した。
欲しいか欲しくないかと聞かれればもちろん欲しい。
目の前に差し出された財宝の山を断る人間なんて、そうそういるわけがない。世の中の平均のような存在だと自分をそう理解している僕だって、当然欲しい。
でもそれだけじゃ納得出来ない場合もある。
「なんでなんの前フリも無く、金銀財宝ドーンとプレゼントしようと思うの? これは新手の悪徳商法?」
「あく……とく?」
僕が口にした言葉。少女はそれをふんわりと口の中で泳がせていた。どうも大切に育てられてきたお嬢様にはあまり理解出来ないものらしい。
「悪徳商法っていうのはね……」
僕は説明を加えた。
「最初は甘い誘惑をちらつかせて相手を誘い込むんだ。そして最終的にはそれを餌に相手に手酷い負債を与えるっていうのかな」
「助けた見返りに多額の報酬請求するみたいなね」
「そうそうそれとかね」
さりげなくボソッと付け加えた由宇さんに、僕は何気なく同意した。たまには普通のことも言うんだな、そんな気持ちと共に。しかし。
「ん?」
同意した数秒後、その発言に何か妙な違和感が浮かんだ。どうも直近で身に覚えのあるフレーズだ。
「俺達がやろうとしてた事じゃねえかよ」
仰る通りで。
タクトのその一言で話は振り出しに戻った。
元はといえば、見返りが欲しいという、そんな下心を持ってこの家を助けたのだ。まあだから、結果的に財宝が貰えるというのは狙い通りの結果だったわけだけど。
「別に僕が全面的に何とかしたわけじゃないしなあ。家だってこんなに壊れちゃったし」
「……」
「これじゃあやっぱり、僕らが貰う訳に……ぐはっ」
とんでもない激痛が前進を駆け巡った。痛い。すごく痛い。特にお腹のあたりが。おかげでついこんな漫画のような擬音語まで出てしまった。こんなことをする犯人はもちろん分かっている。
「タクトさん……な、んて、ことを」
犯人も何も、隠すこともせず全力でお腹を殴り飛ばした張本人ことタクトは眉間に皺を寄せて僕を睨んでいる。そんなに不服か、僕が金品を受け取ろうとしないことが。
「そん、な……」
しかし、僕の言葉は全てをアウトプットする前に急に幕を閉じてしまった。
膝がガクンと崩れ落ち、そのまま意識を失ったのである。
「ったく、ネチネチネチネチめんどくせえ。こっちは時間がねえってのに」
「幼女ちゃんはさ、別に、騙されたとか、無理矢理にとか、下心とかじゃなくて、純粋にあげたいと思って、これを「あげる」って言ったんだよねえ」
「……そう」
「そうでございますな」
「一番疑わしいのは森田さんの心の中だよねえ」




