51 バットエンドだったようだ
駄目だと思うよそういうの。話の展開的にワンパターンになるからね。僕はおすすめしないよ、うん。おすすめしない。
「お嬢様! またそんな事を」
身内から新たに発生したトラブル。その心中は僕もお察しする。この物語も締めに入ったであろうタイミングにまさかの海賊登場。あげく本人曰く爆弾のスイッチを掲げる少女ときたもんだ。そりゃあ老紳士も悲痛な叫び声をあげるだろう。
「おいクソガキ、そんな脅しで引き上げると思ってんのか?」
で、加えてこれだ。
あらかた予想は出来ていたけど、タクトはそんな爆弾のスイッチごときで、ひるむような人ではなかった。それどころか、より一層ガラの悪いオーラを醸し出し、少女に絡んでいる。
「ぼぼぼ、暴力はおやめください」
気持ちは二人の話に割って入ろうとする老紳士。あくまで気持ちだけ。肝心の体が声に伴わない。しどろもどろと完全に体が踊っている。
まあ別に、彼が割って入らなくても少女は困らないだろうけど。
「脅しじゃない」
スッとタクトを見上げる少女。
もちろん彼女の涼し気な対応も僕には十分予想がついていた。そのくらい肝が据わっていなかったら、一人で盗賊の親分に殴り込みになんて行かないだろう。なんならこの状況、既に少女が爆弾のスイッチを押していたっておかしくはない。
「だってもうスイッチ押したもの」
ほらね。
……。
「っていやいや、それは流石に駄目だろう!」
「ああ?」
「おやおや森田さん、静かだと思ったら急にツッコミかい。相手がボケるタイミングをうかがっていたのかい」
「違います。そうじゃなくて、あのね」
変なところに興味を示す幼馴染は放置して、念のため僕は少女にもう一度確認した。
「何を、押したって?」
「スイッチ。爆弾のスイッチ」
ありがとう。言い直してまで二回言ってくれてありがとう。おかげで空耳とか解釈違いの線がバッサリ消えてくれました。
どうやら勘違いでは無いようだ。これは扉の開閉スイッチでもなければ、照明のスイッチでもない。紛れもなく爆弾の起爆スイッチ。それが、たった今こうして彼女の手によって作動したのだ。
「……よし分かった」
僕はあらかた考えていた通り、一つ縦に頷くと、彼女に向かってこう言った。
「彼の非礼は謝るし、お礼もいらない」
「おい、てめ」
「だからどうか、もう爆弾を止めてもらえると嬉しいな」
「何勝手に」
怒りの矛先をこちらに向けるタクトを抑えつつ、僕は彼女をみつめた。
「なぜ?」
可愛い顔がみつめ返す。僕は思ったまま答えた。
「こんなことでこれ以上、君の家が壊れる必要は無いかなって」
災害保険に入ってなかったら、いや入っていたとしても、これ以上、何かが壊れる必要はないはずだ。
「……そう」
少女は少しうつむいた。
手元のスイッチに手をかける。
これでようやく、長かった僕らの物語も終わりになる。タクトに返す金貨は五枚のままだけど、今回は別にそれでいい。
これ以上、荒々しいことはもうたくさんだ。長編お疲れ様でした!
「でも、無理」
「えっ」
そのスイッチは停止されることもなく、彼女の手の中に納まったまま。それどころか、この音は。
ゴゴゴゴゴゴ。低い唸るような音。
え、嘘、まさか、聞き覚えのあるこの音はもしかして、爆弾? 僕、どこかで選択肢間違えた? フラグをどこかで立てるべきだった? 仲間にしていないメンバーがいた? それとも時間切れ?
おいおいおいおい嘘だろう。
軋む天井と震える地面、ここにいるみんなの顔。僕は忙しく目を向けた。しかし解決策があるわけでもなく。
「ま、えっ、待っ」
揺れが更に激しさを増す。逃げなければ。けれど足が動かない。
もう駄目だ。
全てを飲み込む音を耳に受けながら、僕は顔を覆った。
「いいのですか、お嬢様」
「いい」
しばらくして。
あたりが無音に包まれる中、僕はそっと目を開けた。死んでしまったからだろうか、体のどこにも痛みは感じなかった。というよりも。
「生きてる」
死んだかと思っていた僕の体にはちゃんと手足が生えていた。
「森田さん、森田さん」
「あれ、由宇さんも生きてる?」
陽気に語り掛ける由宇さん。この人もやはり生きているらしい。
「そんな事より森田さん、あれ見て。あれ」
「あれ? 一体何を……はあああっ!?」
僕はごくごく普通に驚愕した。面白いことを言うとか、気の利いたことを言うとかそう言うのじゃない。とても普通に驚いたのだ。
「こっこれは、どういう事でしょうか?」
目に映るのは金銀財宝。それが、おとぎ話の中のように山積みになって輝いていたのであった。




