49 お天気予想とその答え
「半日もしないで家の者が軍を連れて我々を迎えに来るとのことです」
老紳士はそう言ってピンと背筋を伸ばすと僕らに敬意を示すように深々とお辞儀をした。それから数秒後、顔をあげた彼の目に映ったのは、僕の困った表情だったのだろう。
「何か、問題でもございましたか?」
彼は首を傾げて不思議そうに尋ねた。
「あ、いえ、なんでもないです」
「ちっ、めんどくせえ」
タクトの舌打ちを隣で耳にしながら、僕はなるべく平静を装った。
軍が来る。老紳士のその言葉に、僕にはあの嫌な記憶が浮かんでいた。攻め込まれる海賊船。有無を言わさず敵として僕らを排除しようとする彼ら。現状、海軍という名の集団に、好意的な気持ちを持つのは難しいと思った。
何より『海賊』という名の誤解を払しょくできる要素が無い以上、接触は避けるべきだ。若干一名、本当の海賊がいるけど。
とりあえずは、適当に話を濁して早々にこの場を立ち去った方がいいだろう。さて何と言うべきか。
「あ、そっか、そっかー」
僕が上手い会話の流れを考えていると、さっきまで少女にちょっかいをかけていた由宇さんが、何を思いついたのかポンと手を叩いてヘラりとした笑みを浮かべた。
「非常に残念なんだけど、私達はもう出発しなきゃいけないんだよね」
まさか彼女の口からその言葉が出るとは。
僕は驚いていた。僕は、どうせこの人のことだから「まだここ残って幼女ちゃんとイチャイチャしたい」とか無謀なことを言いだすんだろうな、とそう予想を立てていた。
それなのにまさか現状を把握しているだと。これは雨が降ってもおかしくない。
「おや、そうなのですか。せめて宴だけでも」
「うーん、駄目なんだよねぇ」
すごい、本当にこれは現実か。あの由宇さんが、まともな判断をしているのか。
困ったようにNoと断りを入れる彼女を見て、僕はこれが夢なんじゃないかと思った。けれど、さっきタクトに殴られた顔がどう考えても痛いので、恐らくこれは現実だ。
「どうしてもですかな?」
「どうしてもなんです」
彼の誘いを頑なに拒む由宇さん。よし、決めた。この流れは彼女に任せるとしようじゃないか。
僕は拳を握り小さく頷いた。
今日の彼女はなんだかいける気がする。出番が少なかったから、ここで活躍しようと思っているのかもしれない。だったら君に任せよう。その妄想で培った話の構成力、大いに使う時だ。
僕は目を閉じ、彼女の声に耳を澄ませ、委ねた。
そして彼女は言った。
「だって私たち海賊ですから」
たぶん今日は雨なんて一つも降らないだろうと確信した。




