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 『相性抜群の相手』


 それはこの、僕に敵意を向けている大男のことを指しているのだろうか。





「だとしたら、僕は何一つ嬉しくないですね」


 ひゅん。その言葉をかき消すように、体を大きく左に反らした耳元で、風切る音が去っていった。


「相性、抜群ですか……」


 残念ながらその言葉には一切魅力を感じない。


 なんせ場面が悪い。これがもし、恋愛的な場面で培われた言葉であるのなら、僕は魅力を感じよう。しかし今、僕に猛アタックを繰り返しているのは、クラスのマドンナ的美少女ではなく、いかつい盗賊の親分なのだ。


「まあ由宇さんの言ったことに間違いはないんでしょうけど」


 まるで息を合わせたように、僕は体を動かした。その度に自分の周りで武器が空を割いている。恋愛の『れ』の字も感じない豪快な攻撃の一つ一つが次から次へと丁寧に散っていく。





 つまりはそう、この男の攻撃は、僕に一切当たっていない。





「お前さん、本当に何者だい。ネズミみてぇにこっちの攻撃避けるくせに、自分から攻撃はしようとしねえ。せっかくの武器が勿体無い」


「そりゃあもう、こっちはただの学生ですから」


 武器の使い方なんてもの、生まれて一度も習っちゃいないんですよ。


 こうして無駄口を叩く合間でも、攻撃の雨は止むことを知らない。だからこそ、僕の体は自然に動いた。そう、自然に。


 僕の意思とは無関係に、体は武器を避けていた。


「テメーそんなこと出来るなら最初からそう言え!」


「いやいやそんな事言われても」


 たとえタクトに責められようと、こればっかりはどうしようもない。


 僕だって、こんな風になるとは思っていなかったのだ。





 まさか、相手のことさえ視認しなければ、攻撃を回避出来るなんて。





====================================






「相性抜群? 何言ってるんですか」


 僕は目の前にいる適当なことを並べ出した友人に問いかけた。相性抜群って、そんなゲームの技属性じゃないんだから。


 けれど彼女は思いの外ケロリと答えた。


「だって森田さん、何も見えてない時の方が強いですし」


「何も見えてない時の方が強いって……」


 意味不明である。


 何も見えてないというのも分からないし、そもそも強いという言葉自体、僕には全く無縁である。別に僕は喧嘩の達人でも無いし、体を鍛えてマッチョなわけでも無い。見て欲しい、このお世辞にもガッチリとは言えないこの体系を。


「んー分かると思ったんだけどなあ」


 いや、分からない。


 これで分かる人がいれば、それはエスパーか由宇さんと同様の変人思考の持ち主だ。


「とにかく何も見ないで戦えばいいんだよ。そうだ、いっそ目を瞑ろう! かっこいいよね、心眼」


 目を瞑って戦ったら、大体の確率で死ぬと思いますけどね。





「……目を瞑るのは、いいと思う」


 僕達の不毛な会話に入ってきた新たな来客者。いや、さっきからそこにいたけど。


「幼女ちゃん!」


 ごそごそと物騒な物を調合していた少女は、ようやくその作業が終わったのか、小さな袋を片手に、僕らの方へと歩み寄った。


「二人が石化したのは目を見たから」


迷いなく告げられたその言葉に、僕は由宇さんを確認した。


「え、そうなんですか」


「そうだよー」


 そうだよってアナタ、そういうのを先に聞きたかった。


「大体、石化って言ったらお馴染みじゃないですか、ねえ?」


 そりゃあ君の中でのお馴染みだろう。僕の常識という辞書の中に、相手の目を見たら石化するなんて知識、一文たりとも記載はされてない。


「……だから、目を瞑るしかない」


「そーゆーことですなぁ」


 はははははっと、あっけらかんに笑う幼馴染。





「大丈夫、森田さんは絶対に負けないから」


 根拠なき彼女の謎の自信に、試験並の眩暈がした。





====================================





 結局、彼女の言葉は当たっていた。


 見えなければ最強。理屈は一切不明だが、僕は何故か攻撃を回避することが出来た。体が何故か無意識に回避する方へと動くのだ。


「当たってはいるんですけどね」


 まさかこっちも当たっているとは。 



 『絶対に負けない』というその言葉。確かに今のところ負けてはいない。いないけど、残念ながら勝ってもいない。


 そしてこれ、この奇跡の回避の発動条件は、僕の体力がある場合に限るのだ。


「っうわ」


 遂に僕の右足が、重りの付いた足かせのように、逃げる自由を奪いだした。それはあっという間にバランスを崩し……





「ゲームオーバーだ、小僧」





 静かに終わりの鐘が鳴り響く。


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