44 NPCより戯言をこめて
それはあの地下でのこと。
「ところで森田さん」
「なんでしょう」
牢に捕らえられた身内を救うためには、まず敵が持っている鍵を入手しなくてはならない。
老紳士の発言により、僕は敵と対峙する可能性を突きつけられていた。
「君はこれから鍵を求めて敵に立ち向かっていくのだね」
「……そのままでいいならこのまま放置しますよ」
「ふむ放置プレイですか、なるほどそれもアリ……あーでも待ったー」
正直僕はどっちだっていい。
この期に及んで割とこの状況を楽しんでいる人を助ける義理などまるでない。
ましてやこんな、自分はこれから勇者にヒントを与えるNPCなんですよ、みたいな顔をする人間、このままずっとNPCとしてここで活躍すればいいと思う。
「いいですか、勇者よ。この地に捕らわれたNPCとして、あなたにヒントを与えましょう」
ほらやっぱり言った。よし、やっぱり帰ろう。
さらば、NPCよ。石化する奴隷ポジションで毎日楽しくやってくれ。
「ヒントとかいりませんから」
「ええーっ」
誠に残念ではあるが、自分の命をこんな人間にかけるわけにはいかない。さてと、回れ右――
「君はその隣にいる、悲しげな幼女ちゃんを助けたいとは思わないのかい?」
「……」
「このままだときっと、幼女ちゃん一人でボス戦に行っちゃうと思うんだよねぇ」
「……」
「もし捕まったらその後はー……」
仕方ない。
僕は回れ右をする足の動きを一瞬止めた。
確かに僕の隣では、身内を石固めにされた少女が呆然とその前に立ち尽くしていた。あいにく僕には、無表情な彼女の顔から感情を読み取ることは出来ないけれど、それでも何とかしてあげたい気持ちにはなる。
「ほら、助けたいと思うでしょ?」
やかましい。
「……ヒントじゃなくて、答えを教えてください」
この反省点の一切見当たらない友人を助けるよりは、感情の見当たらない少女を救うことが、僕の今後の行動理由としては妥当なところだと思った。
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「おい、馬鹿っ! ちゃんと前見て戦えよ!」
罵声と殺気が混在する異空間。僕ははっと我に返った。
「こればっかりは、あいつの言う通りだな、坊主」
そうだ、僕は今、死と隣り合わせの状況にいるのだった。
ひやりとした汗が背中を伝う。
「目を開けろ、馬鹿!」
「安心しな、一撃で終わらせてやる」
来る。
「……」
空間の切れ目が一瞬見えた。
「……嘘、だろ?」
嘘じゃない。
それにしてもよかった。まだ手足は生きている。
「お前、ほんとに何者だ」
何者? そんなの見たら分かるだろう。
僕はただの一般人。不運にも友人に巻き込まれただけの、どこにでもいる人間だ。
「今の一撃、見えてたとは言わねえよな」
そんなもの見えるわけない。
「なぜならお前は、今もこうして目を閉じている」
その通り。
僕は今、紛れもなく瞳を閉じている。
あの時友人は言っていた。
石化の秘密は相手の目を見てしまうことだと。
だから目を見てはいけないと。
それ故に『森田さんには相性抜群の相手だ』と、確かに彼女はそう言った。




