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43 華が無いってさみしいね




 ナイフを握った気分は勇者。いいや、これじゃ盗賊か。


「まあ盗賊の本家は目の前にいますけどね、っと」


 そんな僕の無駄口は、容赦なく大ぶりな剣の一太刀によって一蹴された。頭上を風圧が横切ったのだ。


「準備は出来たみてぇだな」


「まだだって言ったって、これ以上待っていただけないように見受けられますが」


「当たりだ」


「暴力反対っ」


 手に加わる重い感触。一気に間合いを詰めた男が力いっぱいに剣を振り下ろしていた。そのずっしりとした大剣から加わる重みは、いとも簡単にそれを受け止める僕の両手を潰しにかかった。


「……っつ」


 気を抜いたら武器ごと叩き斬られてしまう。僕は歯を食いしばりながら必死にナイフを構えた。


 重い。重すぎる。こんな体制、十秒だって維持できる気がしない。


 腕からは徐々に力が失われていた。これ以上は耐えられない。死の映像が脳裏に浮かぶ。そんなギリギリの瞬間、幸いにも相手は自ら剣をひいた。


「へ」


 ついつい間の抜けた声が出てしまう。


 助かった?


 追撃が来る様子も無い。


 ドキドキする心臓をなだめつつ、僕は軽くなった肩を下ろした。その時だった。


「なるほどな」


 安心した僕の耳に、再び男の声が飛び込んだ。


「お前さんのそれ、そりゃあ魔具だったのか」


「し、知りませんけど」


 また攻撃が来るかもしれない。僕は改めて剣を握りしめた。


「こいつは『使わねえ』んだか『使えねえ』んだか、さっきは全然気付かなかったが、そうか魔具か」


 納得したように言葉を並べる男。しかしそうは言われても、いまいち僕にはピンとこなかった。


 一体どこが魔具なんだ。


 なんとなく借りてしまった手前、その本質を僕は知らない。


 慌てて、本来の持ち主であるタクトに確認を取ってみようとしたが、教える気が無いのか、彼からは何の返答もなかった。


「酷い……」


 諦めて僕は自分の中にあるそれに関する知識を記憶の底から手繰り寄せた。


 魔具。例えばそれは彼の足元に備えられている魔法の力を込めた道具。僕を含む男二人を衝撃一つで吹き飛ばした悪魔の道具。そんな未来のトンデモアイテム。その一つがこのナイフだって?


 僕は首をかしげた。


 どう考えても普通のナイフ。失礼だが、RPGで初期装備に渡される、売っても薬草の一つも買えない程度のそんな代物にしか思えない。それが一体……ん、ちょっと待て。


 僕はそっと目を開けた。


 ナイフって、こんな形だったっけ?


 こんなにスリムで、長くて、軽い作りで――


「ナイフじゃない!」


 まるで悪質な詐欺に出会ったかのように、僕の心はざわめいた。福引でゲームソフトが当たったと思ったら、ゲームソフト型の消しゴムが手渡された、そんな気分。


「クソか、気付くの遅ぇんだよ!」


 イライラとした口調でタクトは言った。けれど、武器なんてそんな凶器をいちいち視認していたら、生々しさのあまり、僕が恐怖で動けなくなることをご理解いただきたい。現代の子供は繊細なのだ。


 それに。





「お前さん、心眼でも使えるのかい?」


「いいえ、全然」


 僕は再び目を閉じた。


 視覚を除いた感覚が研ぎ澄まされることもない。


 本当に、普通に、暗いだけ。



「でも、石になるよりはマシかなーなんて」


「変わった坊主だな」





「とんでもない。僕が変わり者ならば、周りは全員普通の人になってしまいます。そんなの絶対ありえませんね」


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