39 帰ってきたミステリー編
「な、なんだこれ?」
二階に上がってすぐ目の前に広がった光景に、僕はとても戸惑った。
廊下に点在する、人、人、そして人。起き上がっている人は一人もいない。そのどれもが皆、不自然な格好でじゅうたんの上に倒れていた。
これが二時間ミステリーなら、現場検証する間に半分くらい終わってしまうだろう。僕はこれがミステリーじゃないことを願いつつ、彼らの横をそっと通過することにした。
「死んでるわけじゃなさそうだけど」
微かにすうすうと肩が上下に動いている。その様子を横目で確認した僕は、ほっとしながら彼らの体を追い越した。
しかしそれは僕の話。僕がそう思ったからといって、彼女もまた同意見という訳ではないのだ。
「とどめ、刺す?」
容赦ない少女の解答。
「刺さない」
躊躇なくポケットから爆弾をちらつかせ、ここぞとばかりに彼らの息の根を止めようとする少女。そんな彼女を制止して、僕は最低限の忠告を並べた。
「極力僕らは争わない」
「……」
「たとえもし戦う場合があっても……」
左ポケットに手を入れる。手にはごつごつとした丸い小型爆弾の感触。少女から貰ったそれが、冷たく不気味に出番を待っている。
「手を出すのは君じゃなくて僕だよ」
出来ればそんな場面来てほしくない。そう願いながら僕は少女の手を引いた。
「……そう」
相変わらず無表情に小さく頷く少女を確認すると、僕は先を急いだ。
「もしかすると、僕も手を出す必要はないかもしれないけどね」
点々と倒れる男達の姿を確認しながら、ぼんやりとそんな予感が頭をよぎった。
多人数相手に立ちまわり、それをことごとく打ち倒せる人物。そんな人間に一人だけ心当たりがある。
この家の侵入者にいち早く勘付き、早々にパーティを離れた男。ガラは悪いが腕は確かな、元海賊の船長であるその男。
「タクトさんっていってね」
廊下で男達が倒れているのも恐らく彼の仕業だろう。その点在する痕跡を追い、僕らの旅も終焉を迎える。
なんだそうか、答えは単純明快だった。僕らは犯人を探し当てる探偵として、この扉を開ければいい。この奇妙に廊下に点在している男達の謎を、たった一つ解明出来ればそれでいい。
「彼はとても強……」
僕は扉に手をかけた。
本当にあくまで手をほんの少し添えただけ。あとはここを開けて全貌を語るだけ。だと思ったのに。
突然、ばん、という大きな音が耳をついた。
「うわっ! え、え、何?」
扉は、生き物が飛び跳ねるように強い力で僕の右手を弾く。
「……テメー何しに来たんだよ」
飛び出してきたのは見知った顔で。
「いや、あの」
「早く逃げろ、馬鹿」
ミステリーなんて誰が言った。これじゃホラーじゃないか。




