38 待つだけの簡単なお仕事
「あの時あそこにいただけでも四人だったから……」
石化した友人らを地下に残し再び地上に再び戻った僕は、今後の展開を考えながら、二階へと通じる階段への廊下を歩いていた。
話の流れ上、敵に立ち向かうという選択肢を取ってみたが、現時点で僕にはこれといってめぼしい主人公補正のようなものは存在しない。むしろこのままだと、出合頭に一発殴られてそのまま気絶なんて展開の方が話の流れとしては妥当だろう。
本来の僕であれば、早々にこの状況が無理難題であることを列挙して、警察を呼ぶなり、自分だけ逃げるなりするところだ。
しかしそんな僕が、まるでRPGの主人公のように初期装備が布の服一枚であっても勇猛果敢に二階へと向かおうとしているのには訳があった。
それが彼女の存在だ。
「なんでついてきてるのかな?」
「……」
僕は先ほどから、さも当然のように背後を歩く少女に訊ねた。
「君は待っていればいいんだよ」
そう優しく言葉を投げかけた。
さすがに少女を命の危険にさらすほど、僕も良識がないわけではない。
侵入者は自分一人で何とかする。そのつもりで彼女には、下で待機しているようにお願いしたのだ。
「お姫様の役割は、みんなの帰りを待つことだよ」
本来ならば、こんな荒々しい出来事とは無縁であるべき少女。僕はその少女に、物語上、最も安全な役割を与えた。それがお姫様。
「……」
「ですよね」
無言の圧力による返答。足音だけがトコトコと僕の後を追いかけた。
お姫様になる気はないらしい。
「はあ」
思わずため息がもれる。
つまりは、こうして彼女がついてくる以上、僕は安易に引き返すことが出来ないのだ。
健気にも、守られることをよしとせず、自ら戦おうとするその姿に、僕の卑怯な人間性が悲鳴をあげた。
ただ待ってるだけでよいのなら、僕は喜んで従うのに。
恐らく、本来の僕であるならば、『待つ』という選択肢を与えられていたはずだという確信が更に僕を苦しめる。
何度でも言おう。僕はどこにでもいる普通の高校生。国数英と今後の人生で役に立つかも分からない敵に立ち向かいながら、机の前で頭を悩ませることが精一杯の存在なのだ。
だからここで弱音を吐いたって、僕は何も悪くない。
「……僕は歴戦の勇者でも、最強の魔法使いでもないからね」
声が小刻みに震える。
震えるその身をおさえるように、僕は小さく拳を握った。
「君のことだって、守れないよ」
「……嘘つき」
ぱたりと彼女の足音が止まった。僕の動きに合わせるように静かに足を止めたのだ。
僕はそれを確認することも無く、ただ真っ直ぐに自分の進む先を見つめた。
出くわしたのは、一人の男。
「お前らは……」
まさかここで出会ってしまうとは。
男が腰に備えたナイフに手をかける姿を目にした僕は、とっさに声をあげた。
「あっ、アレはなんだー!?」
「アレ? なんだそ……がはっ」
今どきこんな典型的な罠に引っかかる奴がいようとは。
僕は少女の用意した小型爆弾が、彼の頭上で綺麗に弾けるのを眺めながらそう思った。
なんて呑気に観察してる場合じゃなかった。
「よし、行こう」
口を塞いだ手と逆の手を伸ばし彼女の手をつかんだ僕は、すぐさま階段を駆け上った。
「今のまさか死んじゃったりしないよね?」
「少し眠くなるだけ」
「なら良かった」
彼女の言葉を信じつつ、僕はついに二階へと足を踏み入れた。




