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37 ヒロイン加入申請案




「はっあれは、お嬢様! お嬢様ぁ~」


 僕らが地下に降りた時、真っ先に聞こえてきたのは、ご存じ老紳士の今にも泣きだしそうな呼び声だった。


 いやいや、いくらここが家の地下で、周りには誰もいないとはいえ、その声はちょっと大きすぎやしませんかね。


 洞窟のような作りになっているこの地下牢に彼の声はとてもよく響く。僕は念のため、本当に周囲には誰もいないことを確かめてから彼らの元へと近づいた。


「やあ、森田さん。それと、幼女ちゃん」


「やあ、ってあのね」


 まるで馴染みの店に顔を出すみたいに、ヘラっといつもの笑いを浮かべる友人に、心配の言葉をかけるほど僕はそんなに優しくない。


「自分の状況分かってます?」


 ごくごく普通に淡々と、ありふれた日常会話をするように、そう質問を投げかけていた。


「状況ねぇ」


 僕の問いに、 彼女は天井を見上げ考えるような素振りを見せる。あぁと小さく呟くと、彼女は再び笑顔を向けた。


「地下の牢獄に初めて監禁されました。これで私もヒロインの仲間入りかと」


「ちーがーいーまーす」


 そんな彼女の能天気さが馬鹿馬鹿しく思えて、僕はつい声を荒げていた。


 なんでこの人はこうなんだろう。


「あなた今、視界が悪くないですか」


「悪いねぇ。転んで瞼を切ったから」





「喋りにくくはないですか」


「にくいねぇ。転んだ時、口も切ったから」





「手足は痛くないですか」


「痛くないねぇ」








「石になって、全く感覚がないから」


「……馬鹿ですか」


 僕は言葉を吐き捨てた。





 そう、彼女の手足は石になっている。


 右手、左手、右足、左足、そのどのパーツをとっても、まるでそこだけ石像のように、ずっしりとした灰色の塊が彼女の形を変えている。よりにもよって、この牢壁と一体化している。





「呪いをとく聖水とか、石化解除の呪文とか、そんなのあったりするのかな」


「知りませんよ」


 自分では顔に付いた血を拭くことも叶わない。そんな友人の姿を眺めながら、僕はもやもやとする気持ちを押し込めた。


「鍵、かかってるみたいですね」


「セキュリティはバッチリだ」


 地下には牢が並んでいた。ずっしり重い鉄製の牢獄。その中に由宇さんと老紳士は閉じ込められていた。


 僕は隣で同様の光景を眺めている少女の様子をちらりと確認した。


 無理だ、爆弾は使えない。


 仮に牢を破壊できたとして、その振動が万が一にも壁に伝わってしまったら。石の硬度は分からない。場合によってはその振動で、壁もろとも二人の手足が崩れ去ってしまうかもしれない。


「この牢の鍵でしたら、奴らの一人が管理しているようでしたぞ」


 由宇さんと同様、体の一部が石になってしまった老紳士は、付け加えるようにそう告げた。





 やはり決着はつけなれければならないらしい。


 出来れば既に決着がついている事を願いつつ、僕は彼らのいる二階を見上げた。


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