34 使えない、へたれのがっかり交渉術
「これでよしと」
気を失った男達の手足を縛り、僕はほっと一息ついた。
運悪く爆弾に巻き込まれた彼ら。幸い今は気を失っているだけで、命に別状は無いようだった。
「あとは」
僕は少女の元に歩み寄った。
「このお屋敷の爆弾、止める方法は無いのかな」
「知らない」
ぷいとそっぽを向く少女。
結局、話はまた振り出しに戻ってしまった。
爆弾を何とかしないことには話が始まらない。
「爆弾の停止スイッチ、実はどこかにあるんじゃないのかな」
「知らない」
何を訊ねても返事は同じだった。……駄目だ。これ以上は話が続かない。
部屋は沈黙に包まれた。
実は今この部屋で、僕は彼女と二人きりになっている。
あの感情表現豊かな老紳士と由宇さんの二人は、食料の確保の為、隣の部屋に出向いていた。その間、僕が彼女の身辺警護兼話し相手になっているわけだけど。
「……」
「……」
いかんせん話が続かない。
気まずい。
二人きりなら爆弾に関するヒントでも教えて貰えるなんて甘い期待もしてみたが、実際には、彼女のガードが増々固くなるばかりだった。
重い空気が部屋を漂う。
「えっと」
少女の隣に移動して、僕はそっと声をかけた。
「爆弾でみんないなくなったら、悲しくなる人が出てくるよ?」
少女は相変わらず無表情のまま。
「私は悪くないもん」
少女は言った。
「悪いのはアイツらだもん」
――悪いのはアイツらか
真っ直ぐに一点を見据える彼女の意志は、やはり揺らぐことがなかった。
悪を悪と認める意志。そこから逃げ出さない意志。大人に近づくにつれ徐々に薄れていくとても大切なものが、この少女の中にはまだ存在していた。
「うん。まあ、確かにね」
そんな彼女のことが羨ましかったんだと思う。
僕は素直に同意をしていた。
「悪いのはアイツらだよね」
「……」
小さな少女はこくりと頷いた。
「本当はさ」
まだこんなに若いのに、自分の持てる力を最大限に駆使して、たとえ誰にも認められなくても、彼女は彼女が正しいと思うことをやり遂げる、絶対的意志を持つ少女。
「それに立ち向かった君は偉いんだよね」
「……」
ようやく目が合った。
彼女の大きな瞳が僕の顔にじっと向けられる。
一瞬だけ、何か言いたげに口を開きかけていたけれど、結局またすぐに閉じてしまった。
別に彼女からの返事が欲しかったわけじゃない。
「気付いてあげられなくて、ごめんね」
それだけ告げて、僕は席を立った。
もう少し考えてみよう。この家と彼女を助ける方法を。
二人が戻ってきたら、今度は四人で考えてみよう。逃げる以外の方法を。
そう強く決心していた時だった。
『どひゃーー!』
隣の部屋から酷く動揺した老紳士の声が届いた。
『どひゃーー!』なんて言葉が実際に出る人間がいることにも驚きだが、今はそこでツッコんでいる訳にはいかない。
「何かあったのかもしれない」
僕はすぐさま壁に体を張りつけて、聞こえてくる物音に耳を澄ませた。
隣に響くバタバタと走り回る音。
「ごめん、ちょっと隠れて待ってて」
二人に何かあったのかもしれない。
慎重に廊下を確認する。
そうして部屋を出ようとする僕の手に、こつんと小さな塊が当たった。
「これは、箱?」
小さな四角い金属の箱にはいくつかのボタンが付いていた。よく見るとその下に部屋の名前が書いてある。なるほど会議室と書いてあるボタンだけは凹んでいた。
「もしかして、爆弾のスイッチだったりする?」
「……」
質問には答えず俯く少女。
「ありがとう」
小さな頭にそっと手を乗せる。
彼女の優しさに感謝して、僕は部屋を後にした。
「……へたれ」
かすかにそんな囁き声が聞こえた気がしたが、僕は聞こえないふりをした。




