33 少女と爆弾と
「森田さん、胡散臭いだって。かわいそう」
「うるさいですよ」
肩にそっと手を置く失礼な振り払い、僕は目線を彼女に合わせるようにかがんだ。
「大丈夫だよ、お兄さんを信じて」
出来るだけ寛容な気持ちで少女に語り掛ける。ここで信じてもらわなければ困る。またさっきみたいに、財布に見せかけた爆弾とか手渡された日には、命がいくつあっても足りない。
「僕たちがなんとかするから、爆弾なんて危険なものは使わないようにしよう」
「そうでございます、お嬢様。この屋敷の爆弾の起爆スイッチも全てお渡しください」
「嫌よ」
なんて強い意志だろう。少女は一歩も引かずに僕らと対峙した。
「それにもう、起爆スイッチは作動してるもの」
「え」
作動してるんかい。これはますます逃げ出さなくてはならない。
「お嬢様、いつの間に」
驚いたように老紳士は訊ねた。彼自身、お嬢様が既にスイッチを押しているとは思っていなかったのだろう。
「……内緒」
「お嬢様あああ」
お気の毒に。
しかし今は悠長に他人のことを気の毒に思っている場合ではない。この屋敷が爆発したら、自分がお気の毒になってしまうのだから。
というわけで、撤退だ。撤退。
絶望に膝を落とす老紳士を横目に、僕は扉に手をかけた。おかげさまで、お嬢様に気が取られている今ならば、彼に強引に引き止められることもない。
僕はそっと扉を押した。
「ん? おい、なんだおま」
「……」
ぱたり。僕は今押したばかりの扉をスッと引いた。
「あれ、今誰かいなかった?」
「いましたねえ」
「誰だろう」
「さあ。不審者か何かじゃないですかね」
まるで日常の会話のように爛々と話をふる由宇さんに、僕も淡々と答えた。扉はトントンと鳴っている。いや、ドンドンか。
『今すぐここを開けろ!』
扉の向こうでは、男が怒鳴り声をあげていた。
「はわわわわ」
『はわわ』って感嘆詞はロリ限定のものではなかったらしい。なんて感心している場合ではない。僕は慌てふためく老紳士に声をかけ、一緒に扉を押さえつけるようお願いした。
「向こうはさっき見えた限り、男性二人です。僕一人では持ちません。一緒に抑えましょう、早く」
かたや屋敷に侵入するような男性二人に対し、こちらはカイワレ学生一人と老人一人。突破されるのも時間の問題かもしれないけど、それでも何もないよりはマシだ。
「は、はいぃ。今、加勢しますぞぉ」
へろへろと干からびたモヤシのような足取りで加勢しようとする、その時だった。
「……二人ともそこからどいて」
「えっ?」
「邪魔っ!」
今ここをどいたら相手がこちらになだれ込んで来るだろうに。
僕はそう思ったにも関わらず、少女の初めて見る力のこもった表情に驚きその手を放してしまった。
「よし開いたか、お前ら一体っ……」
バン ドンッ
勢いよく扉が開き、相手がどっと入ってきた瞬間、その扉の形をしていたものは見事に大きな破裂音を立てて爆発した。
「えーっと」
粉塵があがり瞬間的に部屋一面が真っ白くなる。それらはやがて風に流されて次第に部屋を再び形作っていく。
「これは」
扉は単なる大きめの木くずとなり、計算されたように扉の周辺にだけ積みあがっていた。
「……扉に仕掛けた爆弾」
「なるほど」
扉の破片に埋もれ、少しだけのぞかせた手足を確認しながら、やはり爆弾――もとい彼女を先になんとかしようと固く誓った。




