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32 子供に信用のない男

 木っ端みじんという言葉は教育上よろしくない。ましてやそれを、温室で純粋培養されたような少女が口にしようものなら、それは全力で止めるべきだと思う。


 しかし、本人が『仕掛けた』と断言した場合、どう返せばよいのだろう。


「爆弾を仕掛けたって。君が?」


 なんに捻りも無い質問。僕は思ったままのことをそのまま口した。


「……」


 お嬢様は冷たい。僕の質問などまるで聞こえていないようにそっぽを向いている。ああ、心がくじけそうだ。


「お嬢様は勉学のお出来になる大変優秀な方なのです。中でも調合学、主に爆弾に関する知識と腕前は計り知れません」


 代わりにそばに控えた老紳士が、ここぞとばかりに解説を加えた。ありがとう、おかげで会話は続きそうだ。内容は到底信じられるものではないけれど。爆弾を生み出す知識? 幼少時代の一体どこにそんな過激な勉強を行う場面があるというんだろう。


 彼のにわかに信じがたい話に、僕の表情筋は確実にひきつっているが、彼はお構いなしに話を続けた。


「当然この屋敷にも、お嬢様の作品とも呼べる操作型の爆弾がいくつも存在しております」


 とりあえず思った。


 なぜ家族は止めなかった。


 子供の個性を伸ばすにしても、それはさすがにやりすぎである。家に付加されていく危険物をどうして見過ごしてしまったのか。


「話は分かりました」


 僕は彼の話に頷いた。


 一応全部聞いてみたが、なんだか面倒臭いことになりそうだ。最初はただ脱出経路を確保すればいいだけだと思っていたが、少女が爆弾を作成? もしかして少々妄想がすぎるお宅なのかもしれない。こういう場合、下手にかかわるのはよろしくない。何も無かったかのようにそっとフェードアウトしよう。とにかく今は、適当に話を合わせながら、そのタイミングを探ろう。


「では」


 僕は真剣に考えるフリをしながらちらりと老紳士の姿を確認した。


 出入り口は塞がれている。


 老紳士が扉の前を陣取っていた。彼の表情からは僕たちを絶対に逃がさないという強固な意思が伝わる。隙をついてそこから逃げ出すのは苦しそうだ。


 いや、相手は老人一人。力押しで行けば振り切れるか。


「お嬢様をお助け下さいますか」


 問い詰める老紳士に適当な相槌を打ちつつ、その可否を考えた。


「そうですねー僕の仲間で脱出のプロがあと一人……ん?」


 こつんと胸元に何かが当たった。


「これ」


 それは少女だった。やはり無表情で財布をぶっきらぼうに差し出している。僕は出されるがまま受け取った。


「ありがとう」


 その言葉に彼女は小さく頷いた。


「いつの間に落としたのかな」


 お尻のポケットに財布をしまい込みながら考える。そこで指先が謎のつっかかりを感じた。


 ん、あれ。財布が入らない。ポケットに先約がいる。


 途端、しゃがれた老紳士の声が響いた。


「今すぐその手をお放しくださいませ!」


「え、なぜ。うわっ」


 次の瞬間、手元の財布がポンというコルクの栓を抜いたような音を立てた。右手には軽い衝撃が走る。


「おお、爆発した」


 黙って見ていた由宇さんが、棒読みでその事実を口にする。


「お嬢様なんてことを……」


 老紳士は僕に歩み寄り、手元に傷を負ってはいないか入念に確認する。幸い、彼の忠告に驚き手を放したため、手がすすで黒くなっただけだった。


「胡散臭い」


 失礼な。


 ぽそっと呟いてじっとこちらを観察する少女に反感を覚えたものの、子供相手にムキになるのもどうかと思ったので、反論するのはやめておいた。


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