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30 ミステリー編に突入しない

「金目の物と言われても……」


 結局あれから廊下の端まで歩いてみたけれど、これといって特に目を引くような物は転がっていなかった。まあ普通に考えて、廊下の途中に金塊や宝石が転がっているわけないんだけれど。


「あとはもう」


 行きついた廊下の先、ひときわ大きな扉の前で僕は足を止めた。


「部屋の中を見てみるしかないよねぇ」


 そう言って僕の友人も同じように隣で足を止めた。


 一見すると印象の薄い、背景のような二人が並ぶ。


「でもこれ、完全に不法侵入ですよ」


 僕はそう言葉を返した。


 不法侵入。自分でも今更何を言っているんだという感じだが、それでもやっぱりこの先に入るか否かでは、話の内容が大きく違う気がする。今ここで引き返せば、家主に遭遇していない手前、その事実は誰にも認識されなかったことになる。けれど、この扉を開けた先、そこに誰かがいたならば、この家の住人がいたならば、招かれてもいない僕らは完全に無断侵入したと、そんな事実が発生してしまう。


「そんな事言ったら、ミステリー小説の探偵たちは不法侵入もいいところになってしまうよ」


 そう言って彼女は僕の背中を軽くたたいた。


「チャイムを鳴らしても出てこない。でも玄関の鍵は開いてる。こんな状況、殺人事件でも起きてるに違いないよ」


 いや、それはそれで困るんだけど。


 殺人事件が起きていた場合、普通の人間である僕は、純粋にトラウマなるに違いないのだから。


「さあさあ」


 そんなことなどお構いなしにドアノブに誘導する彼女。それなら自分で開ければいいのに、「自分は読者の気持ちになって推理したいから」などと、相変わらず訳の分からない言葉を並べていた。


ガチャ


「し、失礼します」


 まあそんなこと言っても殺人事件に遭遇することなんて、万が一にも無いだろう。


 心のどこかでそう確信していた僕は、そっとドアノブを回し重厚な扉を開けた。


「お嬢様ああああ、ななななんてことを、今からでも止めましょう!!!」


「……」


パタン


 僕はそっと扉を閉じた。


 今、一瞬、人が見えた。でもこれは気のせいだろう、そうだ気のせいに違いない。


 僕はくるりと扉に背を向けた。


 こういうのはあれだ、関わらないで放っておくのがいい。別の部屋に行こう。そもそも僕らは金目の物を探しているだけだ。今の部屋に金目の物はない。あるとしたら複数の生命体くらいだ。


「ん、あれ。どうしたのー? あ、中に美少女がいる!」


 あなた自分で扉は開けないと、さっきそう言ったじゃありませんか。


 そんな僕の心の叫びも空しく、由宇さんはつい先ほど僕が閉めた扉を開いていた。


「……はあ、また面倒な」


 僕はため息をもらした。


題名を【突入、ミステリー編!】にしようかと思いましたが、嘘もいいところなのでやめました。

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