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3 助けを望んだ人にのみヒーローは現れる

「ったく、どこから出てきたんだか。おう、そっちの奴もここに縛っとけ」

「命が惜しいなら変な気を起こすなよ」


 扉の外側からガチャリと何かがロックされる音。閉じ込められてしまった。


「……」


 皆さまこちらをご覧ください。海賊に捕まった人間でございます。現在は縄で両手首を縛られており、飼い犬のようにリードでしっかりと柱にくくりつけられております。


 腕に食い込んだ縄が地味に痛い。


 生まれて18年、特殊な性癖を持ち合わせていない僕にとってこのような経験は初めてだった。おかげでこの先の人生もこの手の性癖に目覚めることはないと確信することが出来た。そこは素直にお礼を言おう、ありがとう。しかし今、このような状態を突きつけられている僕に『この先の人生』が存在するのか、それは謎である。違った意味で最初で最期にならないか心配だ。


「やだ、どうしよう、こういうの初めて」


 不安になっているのはお隣もだったらしく、僕同様、彼女の手首にも縄がしっかりと結ばれていた。


「海賊に捕まってしまうとか、どうしよう、貴重すぎる。今すぐスマホを取り出さないと……シャッターをきらないと……それが出来ずとも私の心のメモリアルボックスに永久保存しないと」


 よかった、心配する必要はないようだ。


「やっぱりこの気候だとああいう大胆な格好になるのかな。肌の露出、いい、実にいい……彼らはきっと熱い友情で結ばれているんだね。時に喧嘩し、時に涙し、固い絆が……」


 むしろ僕の方が心配だ。

 何が気に入ったのか彼女の口からは、服装の感想から彼らの関係性に至るまで、妄想に覆われた鳥肌の立つような言葉が呪文のように続いていた。一刻も早くこの場を逃げ出さなくては。僕の額には汗がにじんだ。このままではこの人の邪念によって僕のメンタルが永遠の眠りについてしまう。このヘラヘラした能天気な妄想に、僕の心が殺されてしまう。とりあえず耳を塞ぐ術が欲しい。

 けれど相変わらず縄はギリギリと僕の手首を締めつけていた。

 大体なんで自ら海賊に捕まりにいったも同然のこの人と同じ待遇を受けなればならないのか。むしろ自由に会話出来るだけ、この人の方が優遇されている。

 僕は視線を自分の口元に落とした。僕の口には声が出せないように、しっかりとタオルが巻かれていた。まるで誘拐犯にでも捕まったような仕打ちだ。それなのに由宇さんときたら、彼らの手持ちにタオルが一本しか無かったという単純な理由でこれを免除されていた。


 夢ならそろそろ醒めて欲しい。


「あれだよね、こういう時は正義の味方が助けてくれるよね」


 そして出来るなら、次からの夢の登場人物はこの人以外にして欲しい。

 能天気に都合のいい妄想をする少女ではなく、現実的で一般的な登場人物を。


「正義の味方なんて、んなテメーの都合のいい話あるかよ」


 誰かが一蹴した。全くだ。そんな都合のいい話などあってたまるか。だいたい正義の味方だって助けを呼ぶ悲鳴があって初めて駆けつけてくるものだ。それなのに僕たち二人は叫ぶこともなく、こうしておとなしく捕まっている。それのどこに正義の味方の登場する余地がある?


「自分で動かない奴に助けなんて来ねーよ」


 そうそう来ない来ない。ってあれ?


 おかしいな、さっきから一人、余分な声が聞こえる。


 僕は口元に両手を当てた。大丈夫、口にはタオルが巻かれていて声が出せる状態じゃない。腹話術を習得した覚えもない。


「……」


 あれ、僕はいつの間に手が自由に使えるようになった?


「……」


 単刀直入に言おう。


 一人、多い。

 すみません、どちら様ですか?


 恐る恐るあたりを確認した。前、いない。右、いない。左、変な幼馴染一人。ということは、後ろか。

 そうして体を大きくねじるように振り返った僕は、目を大きく見開いた。


 ちょっとあなた、何を持っているんですか。それは凶器というやつではないのですか。刃物ってやつにしか見えないのでございますけれど。失礼、私は実家に帰らせてもらいます!!!


「~~~っ!」


 走馬燈が見えた。


 コンビニにアイスを買いに行こうとした僕。


 魔法の杖を振りかざす幼馴染の姿。……以上。


 短いな、走馬燈。


「ジタバタうるせぇよ、クソが」


 次に見たのは視界いっぱいの足の裏だった。


メリ ばきっ


 体、主に後頭部に激痛が走った。


「感謝しろよ」


 絶対しない。


「金貨五十枚だ」


 何を言うか。


 最初にも確認したが、僕はそんな性癖を持っていないと言ったじゃないか。ましてやお金を払ってまでなど。それを金貨五十枚? ない、絶対にない。


 僕は後頭部をさすりながらゆっくりと上半身を起こした。いつの間にか縄は切れていた。


「とりあえず」


 そう切り出して僕は、目の前でナイフを弄ぶ、若いヤンキーのような男を見上げた。


 とりあえず文句を言ってやる。何ならこちらから慰謝料として金貨五十枚とやらを請求してもいい。


「あ、あの」


 しかしそんな僕よりも、彼女の行動は早かった。


パシャパシャ


「写真とか、撮らせてもらってもいいかな。あ、出来れば今のシーンもう一回お願いします」





 言葉と行動の順番が完全に逆になっている。


 シャッターは言葉よりも早くきられていた。


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