29 悪役商法
「なんで不審者がそんなに湧く必要があるんですかね」
「それはだねぇ。たぶん経験値アップのイベント的な」
「現実を見据えてください」
そんな風に一蹴したのがかれこれ十分前。
「お願いですから、目立つ行動、単独行動は絶対にしないでくださいよ」
なんて、警戒に警戒を重ねながらこうして歩いている現在。
全てはやはり不審者から始まっていた。
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「決めた」
倒れた男の私物を物色しながら、タクトはそう声をあげた。
「決めた、とは?」
僕は恐る恐るその真意について尋ねる。彼の真意は全く測りきれない。ただ、自身に満ちた彼の表情が読み取れるだけだ。
この展開、なんとなく嫌な予感がする。
しかしタクトは、当然、僕の不安な心境など気付くこともなく、自由気ままに言い放った。
「ちょっと狩りに行ってくるわ」
ちょっとコンビニ行ってくるわ、くらいのノリで軽く告げられたその言葉。けれど当然その言葉を簡単に理解出来るほどの知識を僕が持ち合わせているはずもなく。
「は?」
もちろん僕は聞き返してしまった。
狩り。そんな野生じみた状況がここに至る過程の中で果たして存在しただろうか。ぐるっとこれまでの行動を振り返ってみたがそれもなさそうだ。まさか、由宇さんが言っていたように、経験値アップのイベント的な意味でモンスターを狩るとか? いやいやさすがにそれはないだろう。
「すみません、おっしゃっている意味が分からないのですが」
分からないことはその場ですぐ聞きなさい。それが受験生に教えられた合格への第一歩だと、割と最近、こことは違う世界で聞いたっけ。
うっかりしているとこっちの世界の雰囲気に馴染んでしまいそうな自分の意識を強制的に戻した僕は、片手を軽く持ちあげ、受験戦争という言葉とは縁もゆかりもなさそうな柄の悪い元海賊船長に訊ねた。
「は?」
僕の先ほどの疑問符を、コピーしたかのように返すタクト。彼にとっては僕の方こそ意味が分からないってか。そりゃ失礼。
「えーっと、具体的に、何を狩るっていうんですか」
とにかく簡潔に。僕は疑問となるべき焦点について、発言の内容を言い直した。
それを聞いたタクトは、これ以外の選択肢はないだろ、とでも言いたげに、眉間に皺を寄せ首を捻って僕の顔を見上げた。
「不審者以外に何がいるんだよ」
「ああ~」
自然と口元から感嘆詞が漏れた。無論、納得したからではない。ああ、やっぱりこうなるのねっていう諦めの意味でだ。
彼は不審者がいるから手を引くのではない。
不審者がいるから、そいつらをぶちのめすと、そう言いたいのだ。
「やった。再び熱き戦いの火ぶたが切って落とされるー!」
こら、そこ喜ばない。くるくる回転しない。
自分とは真逆に興奮を示す友人に、僕は冷ややかな視線を送った。
「つーわけで」
タクトはくるっと僕らの方に向き直ると、すたすたと僕らの真ん中を通過する。
こらこらそっちは元来た道ですよ。
「俺は不審者を狩ってまわるから、お前らは金目の物でも物色しとけ」
「物色って……」
「恩を売った後のお礼を見定めとくに決まってんだろ。不審者に狙われてるこの家の住人を助けるんだからな」
「見返りを求める悪役ヒーロー!」
「んじゃ、しっかり探しとけよー」
振り向かないまま、人差し指を立て、くるっと宙に丸印を描くタクトを見送りながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。




