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28 不審者注意報



 どうしてこうなった。


 そんな使い古されたお決まりのセリフを脳内で反芻しながら、僕は赤絨毯の敷き詰められた廊下を歩いていた。


「やっぱりやめましょう。怒られますって、絶対」


「別に構わねーだろ」


 結局チャイムを鳴らしたが、屋敷の住人からの反応はいつまで経っても返ってくることがなかった。ならば諦めて帰ればいいのだが、そうはいかないのがこの二人、タクトと佐々木 由宇だった。


「警察に捕まっても知りませんからね」


「大丈夫ですよ。勇者ご一行は民家でタンスやツボを割っても通報されたりしませんから」


 そう言ってきりっとした顔を向ける佐々木 由宇に、僕は一つ大きなため息をついた。


「それはゲームの中ですからね」


 確かにここが竜や魔法の飛び交うファンタジーな世界だったとしても、二次元と三次元、フィクションとノンフィクション、その点においてはあくまでこっちは現実側なのだ。現に海軍という名の、規律を取り仕切る者もいたわけで。


「つーかよ」


 このお屋敷に無断で侵入することを強行した張本人のタクトは、荒々しい足取りで廊下を物色しながら吐き捨てた。


「海賊がいちいちそんな事気にしてどうすんだよ」


 何を言うか。


「……いや、僕は海賊じゃないんで」


 僕は聞こえるか聞こえないかの声で否定した。


 隣には、「そうか海賊だもんね」なんてポンと手を打ち納得した人も一人いるみたいだけど、僕は断固反対する。


 いつ誰がどこで海賊になると言ったかね。やるなら二人でやってくれ。


「しっかし、この屋敷、不審者がいるな」


「不審者ですか、へえー」


 それはお前だ。


 すごく間近できょろきょろと屋敷を物色する不審者に、すぐにでもそう答えてやりたかったが、身の危険を感じた僕は、おとなしく相槌を繰り返した。


「どのあたりにいるんですかねぇ。案外身近にいたりして」


 皮肉めいた言葉。まあこのくらいなら気付かないだろうと、わざとそう言ってみた。が、しかし。


「そうだな、ここに一人」


「えっ」


 シュッとタクトの腰から抜き取られるナイフ。その先は真っ直ぐに僕の顔面へと突進してくる。


 うそ、やばい、え、何、気付かれた? もしかして怒らせてしまった!?


「や、あっ、今の発言は冗談で……っぎゃー」


 口は災いの元。世の中には言っていい事と悪い事がある。分かった。僕はよーく分かった。


ぶすり。


 鈍い音がした。これは命の終わりを告げる音……ではない。


「あ、あれ」


 ナイフの先は僕の横をわずかにくぐり抜け、その先カーテンに深々と刺さっていた。


ドサッ


 重みのある何かが倒れたような音。その音が僕のすぐ後ろから聞こえた。


「何が……ひっ!」


「し、死んでる! これは、事件! 警察だ、警察を呼ぶのです。犯人はこの中にいる!」


「死んでねーし、事件でもねーよ。んなの気絶だ、気絶」


 そう言ってタクトは、調子に乗った由宇さんの言葉を雑に両断した。


「ほら言ったろ。いるって」


 タクトはカーテンをめくり上げた。そこには一人の見るからに怪しげな男が横たわっていた。


「こいつだけじゃねえ。この屋敷、やっぱり何人か変な奴らが湧いてるな」


「ほんと、ですか」


 他にも不審者が複数名。


 地面に横たわるその男を凝視しながら、今すぐにでもこの屋敷から出る言い訳を僕は必死に探していた。


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