27 帰りたい人帰らせない人
「つ、着いた……」
一本道を抜けた先、そこには想像したよりもはるかに大きい、威厳のある洋風の大豪邸が待ち構えていた。
「わー、いかにも富豪が住んでるって感じですね」
そう言いながら、僕はゆっくりと目線を下げていく。
これは……巨人でも通すつもりか。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。建物も大きければ、当然その入り口も大きくなるようだ。10m程度の間隔を置いて、二本の大きく白い柱は、まるで大口を開けるようにして並んでいた。そのインパクトは目の前に立つ一般人の存在感などかき消してしまうほど。平均中のド平均。漫画の背景の一部として存在していても何の違和感もない、そんなモブを見事に体現したような友人、佐々木 由宇も、当然例外ではなかった。
「いやぁ、二人とも来てくれたんだね」
まるで忍者かトリックアート。彼女は門の一部との同化を解除するように、ぬっと姿を現した。
さて。
僕は彼女を見据えた。
「早速ですが帰りますよ」
そう、僕らは帰る。たとえどこぞの地の文に、『しかし僕はまだ知らなかった。ここからまた、新たな事件が発生するということを』なんて、いかにも物語が続きそうな、導入めいた一文が書いてあってもだ。そんなものは、あとでいくらでも修正をかけて、なかった事にしてしまえる。
「でも充電が」
「元の世界に帰ればいくらでもできるでしょう」
「私たちの冒険はまだ始まっ……」
「始まったばかりじゃないです、終わりです」
「でも滅多にない経験ですし」
「しかしこのままでは、来週以降の深夜アニメを逃すことになりますよ」
「はっ!!」
よし、あと一押し。
僕は心の中で握りこぶしを作った。これでも彼女とは幼馴染だ。彼女がどのくらいのスパンで深夜アニメを録画しているかは知っている。まあ、なぜかと問われれば、時々チャンネルがブッキングしたアニメをうちのテレビで録画しているからなんだけど。なんにせよ、このどうでもいい親切がこんなところで役に立つとは思わなかった。
ここから一気に畳みかけよう。
「どうするんですか、『次回はドS小学生の一度きりのデレ回になるかもしれない』って言ってませんでしたっけ。そんな神回を逃していいんですか?」
「よく……ない、です」
「じゃあどうしたらいいと思いますか?」
「帰りま……」
決まった。僕の完璧なシナリオが。正直、自分で何言ってるんだって、自分のことを思い切り殴ってやりたい気持ちではあるけれどここは我慢だ。帰還の為には仕方ない。さあ後は、寄り道せず真っ直ぐに、元の世界に帰る方法を探すのみ。
僕は意気揚々と元の道を引き返し――
「なあ」
はい?
呼び止められたその声に僕はびくりと固まった。
「なんでしょ、タクトさん」
そろーりそろーり。
超重要危険物を取り扱うように、用心深く僕は彼の顔色を窺った。表情は、いつも通り不愛想なままだ。
「お腹でも空きましたかね。いやあ実は僕もで」
「金貨五十枚」
「っ」
淡々と告げられるその言葉。
なんとなく、そんな予感はしていた。
たぶん彼にはバレている。僕に金貨を返す気など全くないことが。
「で、いつ払えるって?」
すごい、ものすごい圧を感じる。
「まさか踏み倒すんじゃ……」
「あっ、あー! こんなところに大豪邸がー! ここなら金貨の五十枚や百枚、簡単に貸してくれるかもしれないですねー! ささっ、行ってみましょうかー」
だからそのナイフを今すぐしまっていただけると助かります。
「すみませーん」
僕は急いで玄関のチャイムを鳴らした。




