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24 カットしても問題ない話だった




 諦めろ? そんな言葉を簡単にあなたが口にしていいんですか、タクトさん。


「正しい選択だな」


 地面に転がったナイフを見て、太った男は満足げに笑った。


 正しいって何が。ナイフを捨てることが? ここで戦わないことが? 確かに無駄な戦いはよくない。けれどそれは、あなたのキャラじゃないでしょう。あんなに粗雑な人間が、ここで大人しく海軍に従うなんてそんな馬鹿な。


「ここで下手に暴れたら、お前だけじゃない。こいつらまで重罪になりかねないからなぁ」


 そう言って男は僕を見た。


「あっ」


 そういう事だったのか。ここでようやく気付くなんて。


 僕はタクトを確認した。彼は何も言わず下を向いていた。


 なんだかんだいって、あなた、めちゃくちゃいい人じゃないですか。


 自分の心の中に何とも言えない温かい気持ちが湧いてくる。


 こんないきなり現れて、世界観をかき乱すような人間をここまで気遣ってくれるなんて。


「あなたって人は……」


 彼があえて反撃しないのは、これ以上、関係ない僕らを巻き込まない為なんだと、その時ようやく理解が出来た。


 暴言吐かれたこともありました。思い切り蹴られたこともありました。でも、そんなの水に流しましょう。あなたの優しさが最後の最後で見れたのだから。


 じゃあ、今度は僕が見せる番だ。


「タクトさん、あなたはきっと何も悪くない」


 僕は勇気を振り絞った。


「僕たちのことは大丈夫」


 包囲網だけがじわじわと迫ってくる中、部屋の中には僕の声だけが綺麗に響いた。


 もしこれで最悪の結果になったとしても、僕は絶対後悔しない。


 心臓がドクドクいってる。こんなに緊張したのはいつぶりだろう。いや、今まで安全で平和な一般人として生きていた僕にはこんなことなかったのかもしれない。


 僕はまっすぐ前を見据え、大きく息を吸い込んで、伝えた。


「こんなところで負けるなんてまっぴらです。やっちゃいましょう、タクトさん!」


 体が震えている。でもこれは恐怖じゃない。


 もしかしたら最悪の展開になってしまったかもしれない。でも、こうするのが正しいって思ってしまったんです。そうですよね、 由宇さ……


「異議あーり!」


「なっ、まっ……えーっ!」


 えーっ。


 僕以上にはっきりとした声で高らかに宣言する彼女。きっと僕は今年一番の間抜けな表情で間抜けな声を出していることだろう。残念ながら今の僕には冷静にそれを判断することなど出来なかったけれど。


「な、なぜ、ですかね」


 その否定の原因を僕は恐る恐る確かめた。


「ここまで囲まれちゃ勝ち目ないじゃないですかー」


 すごい、この人、正論で即答してきた。いや、間違ってない。全然間違ってない。でも。


 僕は辺りぐるりと見まわした。



 この人たちにおとなしく捕まるってのが正解だっていうのか。


 彼女は僕の不安を一蹴するように笑った。


「大丈夫、こんな露骨なレベル差がある状況でゲームオーバーにはならないですよぉ。ね、たっくん」


「は、うるせ。つべこべ言ってないで行くぞ、飛べ!」


 はい?


 由宇さんに話を振られ、しばらくうつむいていたタクトはそう言って顔を持ち上げた。


「あの、え、ちょっと」


 話が見えないんですけど。


 海軍たちは一斉に動きを止めた。僕も動きを止めていた。その中で。


「森田さん、ほらほら、軍服に名残惜しい気持ちは分かりますが行きますよ」


 佐々木 由宇だけは、てててっと小走りで寄ってきて、ぐいぐいと服の裾をつまんでいた。


 軍服に名残が惜しいのはあなたでしょう。いや、そうじゃない。それよりもどうして。


 僕は戸惑いを隠せない。


 どうして。


「どうして、竜がまたここにいるんですかね!?」


 佐々木 由宇に導かれるまま僕はそれの元へと足を進める。


「うるせぇな」


 既に竜にまたがっていたタクトが、助走をつけてジャンプした由宇さんをぐいっと引き上げる。この二人が乗っているところを見ると、これは幻じゃない。確かに竜だ。





「こいつは元々俺のだからに決まってんだろ」


 ははあ。忠犬ならぬ忠竜という訳ですね。なんて納得出来るか。


 こうして僕らは空高く飛び上がった。


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