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22 さらば天井


 悪は無数に存在するけれど、本日一番の悪は何かと聞かれたら、僕は迷わず答えよう。佐々木 由宇こそ本日一番の悪であると。


「おま、え」


「由宇さん……」


 断言しよう。この時、間違いなく僕ら男性陣は敵味方の隔たりなく、彼女に対して同じ感情を抱いていた。こんなにあっさりと隔たりが破壊されるなんて、大した争いじゃないと思えるだろう。しかし残念ながらそうじゃない。彼女の行動が世界最強クラスのハンマーに相当するというだけだ。


「見た?」


 そんな僕らの気持ちなどお構いなしに、喜々とした様子で彼女はほんの数分前の出来事についての話題を口にした。


 見た、じゃない。それはむしろ僕が言いたいことだ。


 君は見ていただろうか。今そこで、二人の男が決着をつけようとしていた光景を。目には目を、歯には歯を、悪には悪を、裏切り者には死の鉄槌を、そんなけじめのつけ方を今まさにしようとしていたじゃないか。タクトが魔法竜の一撃を相手に当てようとしていたじゃないか。それなのに。


 僕は空を見上げた。これは比喩表現ではない。事実、天を見上げると、そこには雲一つない綺麗な青空が広がっていた。


「なんで、天井ぶち抜いたんですかね……」


 今更取り返しの付かないことなど承知しつつ僕は呟いた。一体今回の展開のどこに、船をオープンカーみたいにする必要があったのか。みんなで夜空でも見ようというのか。


「こんな狭い船の中に居ちゃ勿体ないよねぇ」


 彼女はそう言って、いつものヘラへラ顔にドヤッとした表情を加えた。本人はこれで大変満足しているらしい。


「いやぁ、よく飛んだ」


「飛びました、ね」


 その言葉の通り、今この場にあの魔法竜はもういない。彼女が天井に向けて魔法を放ったあと、その大きくあいた風穴から、すっぽり綺麗に飛び立ってしまったのだ。その姿は、今までこの船に収まっていたとは思えないほど、とても大きく美しいものだった。


「いつかまた会えたら、絶世の黒髪美青年になってたりしないかな」


「しないでしょう。大体、なんでオスだと思うんですか」


 彼女の都合のいい妄想に、僕は久しぶりにツッコミを入れた。そもそも性別以前の問題で、竜がどうして人になれると思うのか。生物界の突然変異で竜という存在が生まれたとは考えられるけど、そこから人間になるなんて、どうやったってありえないだろう。


「んーそうだと思うんだけどなぁ」


 僕の言葉に、由宇さんはいまいち腑に落ちない様子で首をかしげていた。


「それよりもですね」


 僕らにはまだやるべきことが残っている。僕は彼女にもっと周囲を見るようにと目線で促した。勿論、決着をつけようとしていた二人を妨害した件もある。けれど、それよりも何よりも――


どっどっどっどっ


 規則正しい足音と小刻みに振動する床。それは僕らの方へと向けられていく。一つまた一つとみるみるその音が増えていく。


「ははっ、お前の悪運もここで終わりだな」


 さっきまで悲痛な声だった男が、勝ち誇ったような汚い笑いを浮かべる。


 これは、なんか、やばい。


 目の前で現在進行形であるその光景に、僕の語彙も不足する。


「全体止まれ!」


 びりっと場が引き締まるようなきびきびとした男の声。その号令と共に、周囲に集まった白い軍服を着た男たちが一斉に動きを止めた。





「今より貴様たち海賊を魔法竜密輸の疑いで捕縛する!」


 一方的に向けられる敵意。


 僕たちは完全に囲まれていた。


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