21 一番恐ろしいもの
僕らを襲ったのも海賊で、助けてくれたのも海賊で。一体、何が正しくて何が間違っているんだろう。とりあえず、助けてくれた方が僕らにとっては味方だって考えていいのか。ね、由宇さん。
「ん?」
僕の視線に、この場では唯一の少女、佐々木 由宇は相変わらず緊張感のない笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「クライマックスってやつだね」
君はほんとに。
僕はこぼれるため息を押しとどめ、彼ら海賊たちの様子を窺った。確かに彼女の言う通り、二人の物語は終わりを迎えようとしているのだろう。だからってクライマックスって。彼女は完全に物語の傍観者になっていた。
でもまあ。
「おとなしく見ていてくださいね」
今回は僕もそれでいいのかもしれない。だって、僕らは本来、この世界に存在すべきではない人物のはずだから。海賊も魔法もドラゴンもみんなまとめて、今だけが見せる特別な夢なのだ。きっとすぐまた、僕らはあの現実に戻ってしまうのだろう。
了解、と由宇さんは僕の言葉に小さく親指を立てていた。
さて、あとは。
「おい、待て、何する気だ!」
男の悲鳴にも似た声が飛んだ。太っちょの男海賊はいまや、僕らを襲っていた頃の勢いを失い、完全に敗者の様相を醸し出していた。地面に腰をおろし、見上げるようにしてタクトと会話する男。口調は相変わらず強気でも、その立場は一目瞭然だった。
「何って見りゃ分かんだろ」
男の目線に合わせてしゃがむタクト。右手でナイフを遊ばせながら楽しそうに言葉を返した。
「魔力が無くて動けないんだろ。じゃあ、返してやるよ」
「返すってお前、馬鹿っ、まさか」
まさか。
彼の左手に握られているのは、魔力が蓄えられた小瓶。隣にいるのは魔法竜。その竜の能力といえば――
「いやいや、遠慮すんなって。今ならこの船のエネルギーごとくれてやるから」
「ふざけるな! そんなもんくらったら、俺様が死っ……」
ガキン
言葉を遮るようにして、男の足元にはナイフがつき立てられていた。
「死、なんだって? まさか俺を殺そうとした奴が、自分が死ぬかもしれない可能性を考えてないわけねーよなぁ」
どっちが悪役なんだかわからない。なんて口に出したら、今度は僕の身が危ない気がするので言わないでおく。心の中にとどめておこう。
タクトは竜の体に自分の手を当て魔法の照準を男に向けた。それに合わせて竜が首をゆるりとひねる。男の命乞いなど無いに等しかった。
「待て、やめろ。分かった、悪かった謝る、船長、命だけは、助け」
「くらえ」
黄金色の光に照らされて、二人の顔も白くなる。
やはり海賊は海賊だ。僕らを助けようがそうでなかろうが、一度敵だとみなせばそれ以上はない。なんの躊躇も無く相手を傷つけることが出来てしまう。
これ以上は見るべきではない。
僕は目をそらし……え。
「あなた、今度は何やってるんですか」
「ちょっとごめんね」
この場にあまりにも不釣り合いな平平凡凡とした少女は、そう言いながら、今まさに決着をつけようとせんとする二人の隣に立っていた。
「これはこう、ですね」
何をしているというのか。おとなしく見ててくださいねと言った僕の立場はなんだったのか。彼女はぼそぼそと呟きながらタクトの片腕を天井に向けた。
「うん、よし、おっけー。せーの、ドラゴーンファイアー!」
恐ろしい。恐ろしく酷いネーミングセンスだ。
けれど、それにより、その魔法は真っ直ぐ空へと突き抜けていった。




