20 それは、勇者?
一度ならず二度までも、そして果ては三度までも、いやこの先何度だって繰り返し自分にとって都合のいい展開が起こると思ったことはない。たとえ僕が、今この場でやっぱり生きているという結果になっても、そんなことは起こらないと断言したい。
だって、そんなに都合よく生きられたら、これは人生じゃなくて誰かの描いたハッピーエンドのシナリオになってしまうじゃないか。
「よし、成功」
「はい?」
僕は恐る恐る顔をあげた。自分は結局のところ死んでなどいなかった。
目の前に映るのはニヤリと満足気な少年の横顔。
「タクトさん?」
僕はいまいち状況が飲み込めなくて、彼の顔を覗き込んだ。答えがあるなら教えて下さいよ、先生。
「な、んで」
ほら、僕と同じであそこにいる彼もキョトンとしているじゃないですか。そりゃそうですよ。今まさに、終焉を迎えたはずの僕たちが、全くの無傷でさっき同じように立っているんですから。
「ほう、やっぱり勇者だったんだ」
彼らの隣で手のひらをポンと叩いている由宇さん。感心している場合ではない、少しは心配くらいしてもらいたいものである。というかその勇者という解釈も十分に間違えていると僕は思う。なぜなら。
「は、勇者? 俺が?」
タクトはそう言って懐からナイフを取り出した。いつの間にか、僕らを取り囲んでいた電気の罠も消え去っていた。
「じゃあさ」
彼はそう言いながら一歩ずつ前に進みはじめた。
「そいつはこんなにガラが悪いか?」
悪くないと思う。
「何の躊躇も無く船を荒らして、出てきた相手を力でねじ伏せるような真似するのか?」
しないと思う。
「や、やめろ。来るな!」
じわり。タクトは少しずつ、男の方へと近づいていく。蛇のような鋭い目で、獲物をじっくり狙うように一歩また一歩と距離が近づく。逃げればいいのに。僕は思った。けれど、何故か男は動かない。
「逃げられないよな。だってテメー今、俺を本気で殺そうとしてたもんな。おかげで魔力も体力も一切残ってないもんな」
「なんで、そんなことが……」
「分かるかって? そりゃお前、こんなに魔力が充電されたらな」
タクトは握りしめていた左手を開いた。
「お前、それ」
男は信じられないと言いたげな表情を浮かべた。何がそんなに恐ろしいのだろう。彼の手のひらに乗っているのは、単なる小さなビンなのに。
「これならどんな魔法も全部収まると思ってな」
「だけど、それは」
「知ってる、船の動力炉なんだろ。これならどんなに大きな魔法でも、全部蓄えられるって、最初、買った時に聞いたしな」
そんな便利なものがあるのか。なるほどさっきの魔法竜の攻撃は、それに吸収されたのか。よく見ると確かにほんのり黄色に光っている気がする。
「馬鹿か」
男はさらに動揺を見せていた。
「ここに持ってきたってことは、船をぶっ壊して取り出したってことじゃねえか。そんな事したら二度と戻らなっ……」
「構わねーよ」
タクトは淡々と、それでいて決して逆らえないような力を感じさせる声で静かに答えた。
「だってこれ、俺の船だし。船に乗る手下も、テメーを含めてもういない訳だしな」
やっぱりか。
そう思いながら僕は目を閉じた。
このタクトと名乗る彼。なんてことはない、この人もまた海賊だったのだ。




