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19 頼みの綱

 僕らは動けない。


 だとしたら、頼みの綱はあなたですよ、由宇さん。


「お前、いつの間にそk……」


「このドラゴン、本物?」


「あったり前だろ! 正真正銘の魔法竜だ!」


「へえええええ」


 由宇さんは、コクコクと男の説明に深い頷きを見せていた。違う、そんなところで感心している場合じゃないんだ。彼はあなたの敵なんですよ、一刻も早く逃げるとか、戦うとか、僕らを助けるとか。それなのに、どうして会話を始めちゃってるんですか。


 頼みの綱? とんでもない、こいつは糸だ。ただの糸じゃない。納豆の糸レベルだ。僕の焦りなど無関係に彼女達の会話はまだ続いていた。


「魔法竜、つまり今のが魔法であると?」


「ああ。こいつはな、魔法竜って言って、他人の魔力を餌に強大な魔法を生み出せる。いわば魔力増幅機だ」


「ほほう。でもさっきのが強大な魔法とは思えないけど」


 確かに。こんな相手の動きを止めるだけの魔法、こいつがドヤ顔するほどの強大とは思えない。まあ、強大な魔法だったら僕らはとっくに死んでいるから、よかったといえばよかったのか。


 それを聞いて男は笑った。


「当然、さっきのは練習だからな。ま、アイツにはこの程度の魔法すら使えないけどな。なぁ? 魔力ナシの脳筋野郎君」


「あ?」


 脳筋野郎。その言葉はタクトを刺激した。でも否定しないところを見ると、本当に魔法が使えないのか。


「怒るなよ、事実だろ」


 男は嘲笑う。その笑いは本人だけではなく、第三者の僕まで不快な気持ちにさせる。


 ところで。


 僕は横目でタクトを確認した。やはり反論することもなく、苛立ちを募らせている。やはり不思議だった。


 なぜこの人はタクトのことをここまで知っているのだろう。


「さてと、おしゃべりはここまでだ」


 男は竜に手を当てた。再び竜の体が黄金色に変化していく。


「楽しい旅だったよ、タクト」


 その黄金色は先ほどとは比べ物にならないほどに強い輝きを放っていた。駄目だ、死ぬ。動いても動かなくても関係ない。だったらいっそ感電してでも逃げた方がいい。


「一か八か逃げましょう!」


 竜の視線は真っ直ぐ僕らを狙っていた。


「ほら早く」


 僕はタクトの袖口をひいた。途中、バチンと弾けるような痛みを感じた。痛い。けれど、そんなのいくらでも我慢してやる。一分一秒でも命が延びるなら。でも。


「タクトさん!」


 彼は動かない。


「タクトさん!」


「……」


 ああもう駄目なのか。


 男は僕らに向かって人差し指を向け、言った。


「じゃあな、哀れな三流船長さん。やれ、魔法竜。やっちまえ!」


 ああ。


 結局、僕は逃げられなかった。自分一人でも逃げられなかった。友人の女の子に助けを求めることも出来なかった。相手に立ち向かうことも出来なかった。何もせずに終わってしまう。このまま、何もせずに。


 ……うん、ちょっと待て。哀れな三流、船長?


「それは」


 それは一体どういう事なんだ。


 しかしその瞬間、その言葉は一瞬にして、光の槍に貫かれていた。


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