18 描写されなければ何でも出来る
部屋が光に飲み込まれたのはあっという間で、僕には逃げる暇なんて当然なかった。頭に描いたのはゲームオーバーっていう、ゲームで負けてしまった時の悲しい光景と、実際にはそれだけじゃ済まされないだろうっていう命の終わりの瞬間だった。
「あ、あれ?」
けどなんだ、生きてる。
別に死んで霊体になったわけでもない。意識も持ってここに立ってる。
「なーんだ、何も無かっ……」
「馬鹿、動くな!」
「痛っ」
耳にキーンとタクトの声が突き刺さった。指先にはばちっという音と共に痺れるような痛みが走った。
さすがにその怒声だけで手まで痺れるとは思えない。手には別に何の傷も残っていないし。じゃあ一体、何が。
「自分の周り、よく見てみろ」
「よく?」
そう言われて、周囲を確かめようと体をひねろうしたところで、また怒声が飛んだ。
「だから動くなっつってんだろ」
周りをよく見ろって言ったのはそっちなのに、理不尽な。
「見えるだろ、浮いてんの」
イライラした口調。いつタクトから回し蹴りが飛んできてもおかしくはなかった。
けれど今、こうして忠告だけで済んでいるのは、動くなという指示に関係しているのだろうか。考えてみれば、確かにこの人はさっきから動いていない。
「浮いてる?」
仕方なく僕は、彼の指示に従い、目を凝らして観察した。うーん、そういえば、薄ぼんやりとした線みたいなものが見える。
「この埃みたいなやつですか」
タクトは、ああ、と小さく頷いた。
「それには電気が走ってる、下手に触るなよ」
「触るなよって」
少なくとも僕の見える限り、それは自分を囲むようにしてフワフワとたくさん浮いていた。
「動けないじゃないですか」
そう言った後で僕は気が付いた。ああ、だから動くなって言ったのか。なるほど。かなり威圧感があったけど、これは彼なりに僕を気遣ってくれていたのか。不器用な人だなぁ。
僕は少し可笑しくなった。
じゃあ僕よりも気をつけなきゃいけない人がいる。
「由宇さんも気をつけて下さいね」
自分なんかより好奇心旺盛で、喜んで罠にかかりにいく、そんな人間がここにはいる。僕は近くにいるであろう友人にそう言葉を投げた、つもりだったのだが。
あれ? 竜の隣にすごく見慣れた人がいる。あれはもしかして。いや、もしかしなくても。
「何やってるんですか。由宇さん」
「ドラゴンが今、熱い」
「いや、そうではなくてですね」
彼女は僕ら側ではなく、なぜか竜側に立っていた。
物語で描写されてない間があるからって、好きなところに登場していいってわけじゃないんですよ、由宇さん。
「あっなんだ、お前!」
ほーら気づかれた。何者って、天井罠の時から、あなたの事を観察するために尾行してましたけどね、この人。見覚えないですか、この締まりのない顔。
しかしまあ、どうするつもりなんですか、あなたは。
僕のぼんやりとした不安よそに、彼女は満足そうに竜を眺めていた。




