16 夢オチかドッキリがいい
ぎしぎしと軋む廊下。こつこつと床板を踏みしめる音が三人分、不揃いに並んだ。
その最後尾、僕はただ、無言で二人の後ろ姿に従っていた。
「こっちだ」
先頭で手短に行先を指示するタクト。移動を始めてからというもの、彼は余計なことはほとんど語らず、ただ、迷路みたいな船内を淡々と案内していた。
「次、曲がるぞ」
一見すると何度も同じ場所を歩いているように思える。少なくとも僕にはそうとしか感じられなかった。樽の転がった曲がり角、壊れたモップの落ちている一本道、蜘蛛の巣の張った分かれ道、そんな光景が何度も視界に映りこむ。
もしや本当に同じ道なのでは?
歩き始めて約十分、それほど広いとも思えない船内にも関わらず、目的地には一向に辿り着く気配がなかった。たぶん気のせい。そう思いたかったが、定期的に映る同じ光景に不安がつのり、ついには手前にいる友人の肩を叩いてしまった。
「なんだい?」
彼女は僕の合図に気が付くと、少しだけ歩く速度を落として隣に並んだ。
「さっきから、同じ道ばかり歩いていると思いません?」
僕は、先頭をいく彼には聞こえないように、小さく疑問を投げかけた。
そうだねえ。それを聞いた彼女はニヤリと右の口角をあげた。
「ダンジョンっていうのは、同じ道を周回すると隠しルートが発生するからねぇ。妖精やエルフの村でよくあるでしょ」
「ゲームの中では、ですけどね」
その、"よくある"という話の前提自体が、現実の世界では絶対に無いことだ。僕はもう少しはっきりと彼女に伝えたかったが、首元まできたあたりで、その言葉を飲み込んだ。
もし、本当に妖精やエルフがいたら洒落にならないからな。
僕は先頭を歩くタクトの様子をちらりと確認した。別段変わった様子はない。
事実、現実世界ではあり得ないと思っていた海賊や魔法の存在が、瞬間的にでも僕の目の前を通過したこともあるわけで、万が一にもそれ以外の存在も実在すると証明されてしまう可能性だってある。そうなったら、僕は、僕は――
いや待て。
まだ海賊だって、形は違えど現代には存在するし、魔法だって単なる自己催眠の可能性だってある。それこそ、この話自体、夢オチって可能性も捨てきれないはず。ドッキリの可能性だって残っている。
真実はまだ決まっていない。
僕は自分の心の中にあるまだ現実として許容出来る可能性に期待を残し、しっかりと周囲の景色を確認した。よく見ればその辺に落ちてる樽にだって、メイドインジャパンなんて書いてあるんじゃないか。部屋の四隅には監視カメラがセットされているんじゃないか。このタクトと名乗る人物だって、じっくり観察すれば、有名俳優が演じているだけなんじゃないか。
「着いた」
ずずーんと低い振動音と共に壁が小刻みに震えた。その発生源とも呼べる場所で、先頭を歩いていたタクトはぴたり足を止めた。
「出たねぇ、隠し部屋」
細かいシャッター音を鳴らし、由宇さんも足を止めた。
「は」
僕も足を止め……いや、足が、止まった。
「はあああああああっ?」
竜。いや、竜か。竜じゃない。でも竜だ。
「りゅ、りゅりゅりゅ……」
「おお、竜だー」
どうやら僕だけに見える幻覚ではないらしい。
大きさといい形といい肌質といい、今まで僕が見たどんな動物よりもその存在は竜であった。
それ故に、僕はこのあり得ない可能性を、事実として認めなければならないと、改めて突きつけられたのである。




