15 「めでたし」が遠すぎる
こうして僕らは助かりました。めでたしめでたし。
あとはなんとかして元の世界に帰りました。めでたしめでたし。
「それで、魔法とは?」
目の前には美人とも不細工とも言えない平均顔の少女がぬっと立っていた。彼女は僕に期待している。魔法についての説明を今か今かと待ち受けている。
めでたしめでたしじゃ終わりませんかね。
僕は顔をそらした。まさかこれほど早く彼女が天井裏から降りてくるとは。僕たちが罠から脱出し、ほんの一分もしないうちに、彼女は目の前に現れた。このフロアの壁に、実は天井裏へと続く隠し扉があったのだ。
道理でいきなり消えたわけだ。
妙に納得してしまった。しかし納得しただけでこの話は終わらない。問題は彼女に魔法についてどう説明をするかだ。天井裏からの移動で多少の時間がかかるだろうから、その隙に当たり障りのない言い訳を考えようと思ったのに。まさか一分とかからないとは。
「……」
目の前では相変わらず彼女が僕の言葉を待っている。どうする、僕。
「魔法、か」
そう、魔法です。
僕は天井裏を見上げた。そこでは先ほどからごそごそと、タクトが何かをやっていた。時々、舌打ちやバキッと物を壊すような音が聞こえたが、ここからだと何をやっているかは分からない。
「面倒だけどまあいい」
少し考えるような間を置いた後、彼のそんな言葉が聞こえた。
「おい、テメーらもついて来い」
頭上から彼の声が響いた。
「魔法が知りたいんだろ」
続けざまに響く声。僕は再び上を向いた。
正直に言えば、少しは興味がある。僕らにとって魔法とは、空想上の存在。当然、実際に使える人間もいなければ、その事象すら存在しない。だからもし、この世界でそれが本当に存在するのなら、実はちょっと見てみたい。しかし。
「うん、知りたいでーす」
この友人は、現実と妄想の区別が曖昧で、日々その二つの空間を漂っているこの友人だけは深入りさせていはいけない、そう思った。何度も言うが、僕が彼女を心配しているからではない。彼女のオタク的探究心が、益々この世界にのめり込み、結果、元の世界に帰れなくなるかもしれないからだ。誰でもないこの僕が。
「遅ぇ」
はいはい、すみませんね。
既にさっきまで目の前にいた由宇さんの姿は消えていた。その瞬発力、もっと別の事に活かせませんかね。
僕は少し色味の違った木の板をぐぐっと手で押した。壁は忍者屋敷の仕掛けのようにくるりとひっくり返った。中は暗いが、隙間から光が差し込みほんのり周りが見える。そこには、はしごが一本かけられていた。
「はあ」
ため息が口から漏れる。拒否権はない。
めでたしの「め」の字も見えてこない。
僕は二人の後を追うようにして、そのはしごを登った。




