12 全世界のファン(本人談)
「この俺様に手を出すって事がどういう事だか分かってんだろなぁ!」
知らん。さっぱり知らん。
キーキーと叫びをあげる丸いフォルムの彼は、天井裏から見下ろすようにして僕たちに不満を垂れた。
「おとなしく捕まっていれば痛い目見ずに済んだのに、これはもう取り返しがつかねぇなあ、おい!」
ばすんばすんと天井が揺れる。彼の地団駄によりうっすらと木くずが舞った。
そうか、痛い目見てしまうのか。
僕はしみじみと思った。
痛いのは嫌である。それは勿論のなのだが、今はそれよりも。
「すみません」
僕は思い切って手をあげた。相変わらず窮屈なので控えめな小さい挙手だった。
「なんだ」
僕の言葉に、男はギラリと鋭い視線を向けた。
「僕、鼻炎もちなので、あまり埃を立てないでいただけますか」
さっきからとても鼻がむずかゆい。
「は」
「いやだから、鼻炎で」
「び、びえ」
だから鼻炎って言ってるでしょうに。
僕は鼻をすすった。
ああでも今ので動きが止まって緩和されたかも。では、話の続きをどうぞ。
「おっまぇ~」
男はふるふると震えていた。言いたいことを胸に秘めて、感情で怒りが爆発しそうな何かみたいに、ぐぐっと力が溜まっているのが分かった。
ああそんなに震えるとまた埃が。
「あの」
「うるさああい!」
ぱあんと弾け飛んだように男は声をあげた。
「てめぇらのことなんてなあ、どうだっていいんだよ!」
そう言うと、男は屈んで、ぐいと自分の顔を強調した。
「俺様に付いたこの傷! ああなんて痛々しい。一体どうしてくれるんだ!」
アップにされることによって強調された丸顔。そのおでこには赤い筋のようなものが出来ていた。
「これはもう全世界の俺様ファンを泣かしちまうに違いない。重大だ、重大すぎる罪だ。償っても償いきれねえよ、なあ!」
全世界のファン、メンタル弱いな。
僕は相手のおでこをぼんやりと眺めた。罪になるかは置いといて、確かに小銭が全力でおでこに当たったら痛そうだなと思った。
でも、やったの僕じゃないんだけどな。ね、タクトさん?
彼を傷モノにした張本人は舌打ちをしながら面倒くさそうにその話を聞いていた。
「どうします?」
僕はたずねた。どちらにしてもこのままでは助からない。だったら相手の機嫌を取って、少しでも自分達に優位に事が運ぶようにした方がいい。幸いこの男、今までの奴らに比べて無駄口が多い。隙ならいくつか生まれそうだ。
「そうだな」
タクトは全てを理解したように深く頷いた。
「さっき投げたコイン、他にもあるなら寄越せ」
「え」
「もう一度あのクソ野郎にブチ当てる」
いやいやいや。
喧嘩を売ってどうする。
彼のまさかの追加攻撃要請に、僕は頭を痛めた。




