11 ラブコメだったら正解だった
「なるほど、魔法道具ですか」
通称『魔具』と呼ばれるその道具は、その名の通り魔法の力を込めた道具であるらしい。海賊の次は魔法ときたか。僕は目頭を押さえた。
これは彼女が聞いたら食いつくだろうな。極力黙っておこう、うん。
「それで、その靴で蹴られると力が増幅して、何かに当たるまで加速し続けると」
倒した相手を縄に括り付けながら、僕は彼――タクトの足元を確認した。見た目はなんてことない普通のサンダルのように見える。これに蹴られた僕はそのエネルギーを増幅させながら敵に接触し、相手を吹き飛ばしたというのだ。
「まーそんな感じだ」
「そんな感じって……」
あまりにも雑な返事だった。
「んなもんどうでもいいだろ、どっちにしてももう使えねぇよ、これは」
この魔具は一度使うと充電に一日かかるそうだ。そうとだけ説明するとこの話を切りあげた。魔法についてはこれ以上語りたくないらしい。
「それよりもう一人がどうしたって」
「ああ、由宇さんですね」
そう言って僕はさっき大活躍したスマホを立ち上げた。画面の表示は案の定【圏外】の文字。
電話が使えたらって思ったけどやっぱり無理か。
僕はそれをポケットにしまいながら振り返った。
「あのどさくさでいなくなってしまったみたいなんです。海賊の一人も見当たりませんし、もしかして人質にでも……」
思わず僕は目を見開いた。何か得体の知れないものが、タクトの頭上めがけて降りかかろうとしている。
「おい、どうしたって……」
「危ない!」
僕はとっさに自分の手を彼に突き出していた。
よくテレビなんかで見る、車にひかれそうな人を身を挺して間一髪で助ける、そんな場面を想像しながら。
バシュッ
「ふぎゃ」
しかし現実はそれほど上手くはいかなかった。
理想を大きく裏切った僕は、タクト共々、見事に罠にかかってしまったのである。
「おい」
「す、すみません」
これほど間抜けなことがあるだろうか。助けようとしてどちらも罠にかかる。車にひかれそうになった人を助けようとして、まさか二人ともひかれてしまうなんて、そんな展開は聞いたことがない。これは喜劇か。
「変なスイッチ押したとかじゃないですよね」
「どう見ても人為的なものだろ」
宙ぶらりんになっている自分の体。僕らは網のようなもので包まれるようにして捕らえられてしまった。動こうにも不安定な体制のせいでなかなか思うようにはいかない。
これがラブコメだったら最高の見せ場だったのかもしれない。若い男女が網の中でキャッキャウフフ。手足が触れてどっきどき。吊り橋効果で恋に発展するかもね。
残念ながら今いるの、男二人だけど。
なんかもう、すごく窮屈。
「はぁ」
別にそんなラブコメ展開期待してないけどね。
僕は網の出所を追った。網は天井に続いている。天井には小さな穴が開いていた。網の出所はその奥だ。
「あっ」
天井の穴が一瞬だけ動いたように見えた。
「ちょっとあれ見ましたか。今あれ動きましたよね」
「どれだ」
「あそこです、ほら、あの穴」
僕は小声で告げた。網の出ている穴の奥がなんとなくチラついている気がする。
「……なんか小さくて投げるものあるか」
「ん、ああ、こんなものでよければ」
五円玉。アイスを買うために持ってきた小銭の一つだ。
彼にそれを差し出すと、彼は躊躇なくそれを上部に投げつけた。
「いやーそれは流石に」
本人は穴でも狙ったつもりなんだろう。でもそれは流石に無理がある。こんな不安定な状態で、あんな小さな穴を狙うなんて。確かに五円玉なら入る隙間はあるかもしれない。けれどピンポイントでそこを通すなんて真似、普通は無理だ。
「あ」
しかし、それは案外簡単に成功した。
五円玉が穴に吸い込まれていく。
ぺしっ
「痛ってえ!」
何かに当たる音と共に悲痛な男の声が天井裏から聞こえた。
「ぐぬぬぬぬ、てめえらぁ!」
均等に並んでいた天井裏の一部ががぱっと開いた。
「よくも俺様にこんなことしてくれたなぁ!」
あ、こいつは。
一目見たら忘れない。手足の短い丸いシルエット。
どうもお久しぶりです。
彼こそは、五人いた海賊の最後の一人に他ならなかった。




