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♯9

そろそろ「妖精姫の結婚」の時間軸にもってこうかなと思う今日この頃です。

 時が経つのは早いもので、もう私がお嬢様の専属侍女になってから三年にもなるのですね。


 お嬢様、今までどうもありがとうございました。


 そしてこれからも真摯にお嬢様のお世話をさせて頂きたいと思っております。


 が。


 もういい加減に学んでください。


 自分で最適な選択肢を選べないのであれば、適宜、私の指示に従ってください、と。


 状況に応じては、命にかかわる時があるのですから。


 足りない脳みそでも、そこのところは重々……、いえ、それができないから足りないのですね。


 そうですね。


 このカーネリアンが悪かったのです。


 ええ、悪かったのですよ、ええ、ええ。


 感情を吐き出すのはこの辺りで、事の経緯なども記しておきましょう。


 

 私はお嬢様のご希望で庭の散策に出かけました。


 敷地の外だなんて、コミュ障のお嬢様にはもっての外です。


 子爵邸内の安全圏、そう思ってしまったのが私の判断を甘くしたまず最初の失敗なのでしょう。


 お供の人間は私の他おりません。


 なぜならお嬢様のコミュ障の為以下略。


 なおかつお嬢様の散策予定範囲も人払い済でありました。


 なぜならお嬢様以下略。


 私をお供にお嬢様はうきうきと身支度をされました。


 お嬢様作の、無駄に装飾過多で動きづらいことこの上ないお揃いのドレスで。


 服にあうからと、厚底でヒールの高い靴を履かされたこともいけなかったのでしょう。


 喜ぶお嬢様に、この装いを拒否できなかったのが私の失敗その二なのです。


 お嬢様の私室であればともかく、外で出たらいくらまだ八歳児の私でも、何かあった際にはお嬢様の身を守らねばならぬ身。


 動きやすい格好でいることは必須項目であったはずなのです。


 お嬢様と私、二人しかいないのであればなおさらのこと。


 もうあのお嬢様の天使のような眼差しの懇願でもこればっかりは譲りませんとも、ええ。


 まあ、それはそれとして、どうなったかというと、ヒールの部分でお分かりいただけるのではないかと思います。


 ええ、そうです。


 バランスを崩したのです。


 そう。


 お嬢様が。


 しかも場所が悪かった。


 子爵邸内に造られた池のほとりで足を滑らせたのです。


 そう、お嬢様が。


 もちろん有能な侍女である私。


 とっさに、お嬢様の腕をつかみ、お嬢様の身を守ることに成功致しました。


 まあ、代わりに私が池に落ちましたけど。


 ……何か?


 仕方ないではありませんか。


 私とお嬢様では歳が五つも離れているのです。


 当然縦も横もお嬢様の方が上。


 まあ、お嬢様は妖精のような華奢なお姿ではありますが、子供のそれと比較できるはずもなく。


 私がお嬢様を引っ張るには反動をつけるしかなかったのです。


 まあ、それは別に良かったのです。


 多少汚れてずぶ濡れになっても、丸洗いすればいい話です。


 ザブンと池に落ちた私は、態勢を整え水面から顔を出しました。


 布の量が多いドレスがかなり邪魔ではありましたが、早く地面に這い上がれば問題はありませんでした。


 実際本当に問題なく、大丈夫だったのです。


 余裕すらあったのです。


 今にも私を助けようと、池に飛び込もうとするお嬢様を目にするまでは。


 ……正気ですか?


 いったい何を考えているのです?


 泳げない人間が、泳げる人間を助けようと水に飛び込んだら二次被害!

 

 私は叫びました。


「お嬢様、いけません! 私なら大丈夫ですから早まっては……!」


 お嬢様は叫び返しました。


「待ってて、カーネリアン! 今私が行くから……!」


 ひ・と・の・は・な・し・を・き・けー!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 飛び込んでどうすんですか。


 ただでさえ重たい服が足枷なのに、さらにお嬢様まで!


 私は止めてもきかないお嬢様が池に飛び込んでくるそのわずかな時間に、頭にとっさにいくつかの選択肢をあげました。


 一、叫んで人を呼ぶ。


 無理です不可です論外です。


 コミュ障のお嬢様の為わざわざ人払いをしてるのです。


 周囲に人なんぞおりません。


 二、お嬢様を抱えて泳いで岸に上がる。


 そんなことができる力があれば、最初から池に落ちることなどなくお嬢様を助けられていたでしょう。


 三、お嬢様を見捨てて助かる。


 ……なんて選択肢、思うはずもないでしょう?


 そんなことするくらいならお嬢様の心中するわボケ。


 なんていささか混乱した一人ボケツッコミを刹那の時間に脳裏に過らせた私の前に、それはそれは立派な木の根っこと蔓が目に飛び込んできました。


 地獄に仏とはこのこと。


 池に飛び込んでみたものの、案の定バシャバシャと溺れているお嬢様のドレスをつかみ、何とかその木の根っこにしがみつかせ、岸に這い上がった私はその木の根と蔓を引き寄せ、やっとのことでお嬢様を助け上げるのに成功したというわけなのです。


 …………………………………………………………………………本当に、疲れ果てました。


 こんなにも疲れ切ったのは、本当に久しぶりのことでした。


 最近、お嬢様もお嬢様の周囲も静かだったので油断していたのです。


 そう、この私、カーネリアンが悪かったのです。


 お嬢様はもっと、言葉も通じない乳飲み子のごとく、ハイハイしだしてどこから転がり落ちるかもわからない幼児のごとく、慎重に取り扱わなければなりませんでしたのに。


 以後、このようなことがないよう重々気をつけてまいりたいと思います。


 ああ、ただ一つ、つけ加えると。


 お嬢様にはたっぷりとその後教育的指導は行いましたが。


 効き目は薄いですが、これもお嬢様の為。


 今回のことはお嬢様の命にも関わることだったのですから、当然です。


 それはそれは、お嬢様に本気の泣きが入るほど、目が虚ろになり放心するまで徹底的に、一切の甘えなく妥協なしに。


 これもすべて、お嬢様の為なのです。


 ユークレースお嬢様の為ならこのカーネリアン、妥協を許さず鬼にもなる所存ですが、……何か? 


しかしユークレースは一晩寝て起きたらカーネリアンの鬼の指導はすべて忘れておりましたまる、と。

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