♯4
旦那様登場。
あの時のことは今思い出しても思わず笑みが浮かんでしまいます。
お嬢様ときたらよたよたと、どこぞの不審者かと思うような態で近寄ってきたかと思うと、がしりと私にしがみついて大泣きするんですから。
幼女にしがみついて離れない、涙と鼻水を垂らした美少女。
それでも崩れない美少女っぷりには素直に感嘆ですが、鼻水はない。
つけたら殺意湧くレベルですよ、まったく。
しかし傍から見たらどんな光景なんでしょうね、あれは。
それにしてもお嬢様は、そんな華奢で風が吹いたら飛んでいってしまいそうななりでいらっしゃるのに、私がどんなに「離れろ、離れんかいこら」と渾身の力でその頭を引きはがそうとしても、ゴリラのような怪力で決して離れようとはしませんでしたね。
そして、私が引きはがすのを諦めるほどに精根尽き果てた頃、お屋敷を抜け出したことがわかって探しにきた使用人達がきても、お嬢様は決して私から離れようとはしませんでした。
大の大人が数人がかりで引き離そうとしても駄目だったなんて……、お嬢様どんだけ怪力なんですか。
諦めた彼らは、私ごとお嬢様を連れ帰ることを決めました。
力技で。
私は訳もわからず説明もなく事情を聞かれることもなく、フローライト子爵家へと連れてこられたわけなんです。
私の人権はどこに。
孤児の私だからいいようなものの、普通は誘拐ですよ誘拐。
まあ、フローライト子爵家の領地で子爵家に逆らう人間なんていやしませんけれど。
所詮は権力や身分がものをいうんですよね。
……っち。
それはそれとして、しがみついたお嬢様ごとお屋敷につれてこられた私は、今まで見たこともない立派なお部屋へと通されました。
そこには、お嬢様の父君、フローライト子爵がいらっしゃいました。
実の父君だというのに、お嬢様は私にしがみついたまま顔を上げようともされませんでしたね。
子爵……旦那様は、お嬢様へ一言、「彼女が気にいったのかね」とだけ尋ねられました。
それに、お嬢様はこくこくと頷かれました。
そして、旦那様は私に仰いました。
「だ、そうだ」
と。
私はそのまま次の言葉を待ちました。
しかし、旦那様は口を開かれません。
だから、私は「……で?」と問いかけました。
旦那様は不思議そうに首を傾げ、「わからないのかい?」と仰いました。
……それでわかるか!
旦那様はやはりさすがは妖精姫の父君、というわけです(中身が)。