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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
帰ってきたグロスティア編
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158話 若様の災難

猛烈な勢いで走ってくる人物に俺達は警戒心を高める。一応護衛として雇われているからな。

よく見ると走ってくる人物の後ろには10人程の兵士っぽい人達が追いかけてくるのがわかる。

もしかして追われているのか?兵士に追われているのなら犯罪者か何かかもしれない。これはさらに警戒を強めないといけないかもしれない。

こちらに真っ直ぐ爆進してくる人物との距離も近くなってきたので、その姿形を視認出来る様になった。よく考えたらホークアイとかの遠視魔法があるんだから接近される前に使えって話だよな。すっかり失念していたよ。

反省は後ですればいいとして、こちらに向かってくるのは逞しい筋肉をお持ちの中年男性だった。

あの腕とか凄いな。俺の足の太さくらいあるように見える。正直超怖い。

しかもそんだけムキムキなのに、こちらに走り寄って来るスピードは結構速いのだ。筋肉だるまが猛スピードで迫ってくる。後衛としては軽く恐怖を感じるレベルだ。


「・・・ッフハーッッッ!!」


マグロとガオーに前面に出るように指示しようとしたところで、彼の人物が何かを叫んでいることに気が付いた。


「フホッヒハッハヘッフハーッッッ!!!」


叫んでいたのは若様の名前だった。すげぇな、あの名前を走りながら言い切るか。しかも何回も叫んでいる。とんでもない肺活量だ。しかし、あんなに酸素を吐き出しながら走っていたらここに着くまでに酸欠でぶっ倒れるんじゃないだろうか?

呼ばれている若様といえば、感極まった様子で走り出した。おい、護衛対象が前にでるなって!


「父上っ!!」


えーーーー。

そう、肉親さんですか。あの人は若様の父親だったらしい。ということはルッドールの国王陛下ということか。

息子の彼が言うのだから間違いはないのだろう。敵ではないみたいなので、身構えていた俺達は警戒を解除する。

全力疾走する国王陛下か。国王ってのは椅子にどっかりと座っているイメージがあったんだけど、あの人はそうじゃないのかもしれない。

まぁ大事な息子が無事に戻ってきたのだから、あの行動にも納得ができる。後を追いかけてくる近衛の人達には頑張れとしか言えないな。

親子の感動の再会だ。

若様と王様の距離がどんどん近付き、抱き合う出あろう間合いまで距離が詰まった時。


「こんの馬鹿息子がぁぁぁぁぁっ!!!」


王様のごん太アームが若様の首を綺麗に捕らえた。

ふむ、あれはプロレスとかでよく見るラリアットというやつだな。スピードに乗ったいいラリアットだ。トップスピードから放たれたラリアットはプロレスのラリアットの比じゃない威力だろう。

ラリアットって凄いんだなぁ、若様が空中で3回転半して頭から地面に落ちましたよ。

正直これは死んだと思いました。折角ここまで護衛してきたのになぁ。

糸が切れたように地面に横たわる若様はというと、白目をむいて意識を刈り取られてしまったようだが、時折ビクンと痙攣するので、生きている・・・んだと思う。たぶん。

追いついた近衛兵の人達が慌てて若様に神聖魔法を掛け始めている。それぞれ王を羽交い絞めにして止める者と若様の治療にあたる者。不測の事態に備えて周囲(俺達を含む)を警戒する者に分かれて役割分担がしっかり浸透している。

慣れてるね、こうなることがわかっていたかのような迅速な行動だったよ。

俺達なんてあまりの展開に思考が停止して、呆然と眺めているしか出来なかったからな。

なんとか一命を取り留めたらしい若様は地面に寝かされているが、こんな状態にした張本人である王様は、意識のない息子に対して表現できないような罵声を浴びせている。鬼か。

掻い摘んで内容をまとめると、どうやら若様は独断で出奔したようだ。若様の呼びかけに応えた50名を連れて前線に赴いたが、周りを敵に囲まれて奮戦虚しく全滅したらしい。若様はお守りとして随伴したメイトゥモローさんの働きによってなんとか守られたが、多勢に無勢は変わらずに捕らえられてしまったとのこと。

若様の呼びかけに応じたのは若い兵士が多かったらしく、前途有望な若者の命を浅慮にも散らしたこと。捕虜となって敵方に有利なカードとして使われそうになった事など、厳しいが尤もだと思わせられるような事を言っていた。実際使われた言葉は酷いもんだけどね。

しばらくすると意識のない若様は運ばれて行ってしまった。運ばれていく若様に対しても大声で罵声を浴びせ続ける国王陛下。

その姿は自滅してダッグアウトに引き上げていくピッチャーにヤジを飛ばす酔っ払いオヤジを彷彿とさせる姿だった。

若様の意識がなくてよかったねと思ってしまったくらいだ。


この場に残されたのは俺達とメイトゥモローさん、そして王様と近衛兵(8人)だ。

若様の姿が見えなくなると、王様は気が済んだのかクルリとこちらに向き直った。

・・・これって平伏したほうがいいのかね?どう対応すればいいのかわからん。

相手は俺達とは関係ない国とは言え国家元首様だ。礼儀は通した方がいいのかもしれない。

うーん・・・あ、そうだ。こういう時はトリスの真似をしよう。

トリスはというと、両膝を突いて俯いていた。アリアも同様の姿勢を取っている。

俺も真似させてもらおう。

俺がトリス達の真似をすると、それを見ていたタァマちゃんも俺の真似をする。マグロは片膝をついて俯いていた。

あれ?もしかして種族によって違うのかな?ガオーを見てみると、立ったままでかい欠伸をしていた。・・・まぁこいつも元は王様だから変なところでプライドが高いんだよな。王位は失っても王者の魂は失わないとか言ってた気がする。こいつが頭を下げる事なんて滅多に見たことないし、頭を下げろとは言わないが、せめて欠伸をするのはやめやがれ馬鹿野郎と言いたい。

王として振舞うならそれなりの品格を身につけろ。

ガオーに非難めいた視線を送っていたら、マグロがそっと俺に耳打ちしてくれた。男は片膝、女は両膝をつけるものなんだとか。

なるほど、俺が今やってるのは女性の礼なのか。オネエだと思われるのもあれなので、すぐに片膝に変更する。

よく見たらメイトゥモローさんも同じ体勢になっていた。

場に静寂が漂い、空気が落ち着いたタイミングで王様がメイトゥモローさんに近付き、声を掛けた。


「さて、クラウドホース卿よ。駄息が未熟なことで卿には迷惑を掛けたな。よく馬鹿息子を守りきってくれた。礼を言うぞ。」


「はっ、ありがたき幸せにござる。このメイトゥモロー。祖国の為となるならば如何様な事であっても身を削る想いを持ち合わせておりますゆえ、今後もなんなりとお申し付けくださりませ。」


「うむ、ではここに5千の兵力がある。ここに卿の兵を加え前線に赴いてほしい。この軍は卿の指揮下に加えよう。出発は明朝だ。」


「拙者帰ってきたばかりでござる。今日はもう休みたいので、今回は遠慮したいのでござるが・・・。」


おい、身を削ると想いとやらはどこに行った?でもこの主君に対してもNOと言える姿はある意味尊敬する。


「たわけっ!それでもルッドールの守護将かっ!卿は目を離すとすぐにサボろうとする。フホッヒハッハヘッフハーの目は誤魔化せても、余の目は誤魔化せぬぞ。それ働け!」


「横暴にござるっ、拙者足が棒でござる!もう休みたいでござる!今日はもう働きたくないでござる!」


「いつになく抵抗するではないか、さてはゴルスタ兵と戦って怖気づいたか?」


「それは侮辱というものでござる!かような軟弱な兵など、拙者にかかれば赤子の手を捻るのと同義!」


「ならば何故そこまで嫌がるのだ。卿の騎馬兵はルッドールにて随一の実力を誇っているであろう。卿等がおれば、我が軍は優勢になる事間違いなく、多くの敵兵を討ち取れるだろう。それは味方を助ける事にもなるのだぞ。それでも卿は乗り気ではないというのか。それならば余を納得させられる理由を聞かせよ。」


「帰ってきたばかりなのに、とんぼ返りは嫌でござる。」


「・・・・・・これは勅命である。行け。」


「し、職権乱用でござるぅぅぅぅっっっ!!」


メイトゥモローさんは抵抗しようとしたが、屈強な近衛兵4人に両手両足を掴まれると、そのまま担ぎ上げられ連れ去られて行った。話の流れから危険な前線に行くみたいだが、あのタイプはしぶとく生き残るだろう。

そして問題は残された俺達だ。報酬はどうなるのだろうか?そしてこの後どうすればいいのだろうか?

王様はまだ去る気配はない。


「面を挙げよ。そなた達にも苦労を掛けたな。愚息に振り回されて大変だったであろう。しかしあのような愚か者でも次代のルッドルーを収める者であり、なにより大切な我が子でもある。礼を言うぞ。」


「いえ、若様には苦労を掛けられたとは思っておりません。そして冒険者ギルドの依頼でもありましたので、我々としても依頼を遂行したに過ぎなませんので、お気になされませんよう。道中若様とは色々と話をさせて頂きましたが、人の上に立つ器をお持ちだと思います。」


「若様には・・・か。のう、クラウドホースが何か迷惑をかけたか?」


「・・・・・・」


「その・・・すまなかったな。悪い男ではないのだが、少々、自分に正直すぎるのだ。やれば出来る奴であるから、やる気にさせるのに苦労するのだがな。次の世代・・・愚息に奴の手綱が握れるのかが今から心配でならぬよ。」


すると王様の近くに居た近衛兵の1人が王様に耳打ちをする。


「おぉ、話が逸れてしまったな。そなた達もご苦労であった。報酬の話もあるだろうし、今日はあの街で過ごすとよい。泊まるところを用意しよう。」


「お心遣い痛み入ります。」


よかった、このまま報酬が有耶無耶になるのかと思った。依頼達成の報酬は冒険者ギルドで貰えるが、若様から約束されていたボーナスについては冒険者ギルドは関係ないので、本人から貰わないといけないのだ。

なんといっても家をくれると言っていたんだ。良い所かどうかを見極める必要はあるが、話を聞く限りでは良さそうな立地だと思うので、ちゃんと話はしておきたい。

時間がとれないので今後もちょっと更新が遅れる事があると思います。気長に待って頂けると助かります。

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