154話 誰が助けるか決めようじゃないか
救出対象である主様がどの人物かはわかったのだが、さて・・・どうやって救出したものかな。
全身糞尿まみれになってしまった若様なので、出来れば触りたくない。この一点に関しては皆同じ気持ちだろう。
これは誰が救出するかで揉めることになる。絶対なる。なので、少しでも俺にとって有利になるように先手を打っておく必要がある。
「救出メンバーから女性陣は外そうと思う。見てわかるようにあの中にいるのは全裸のおっさん達だ。さすがに問題があるだろう。そこで今回のメンバーは俺、ガオー、マグロ、メイトゥモローさんだ。アリア達はここから離れたところまで下がって逃走経路の確保をお願いできるかな。それで救出についてなんだけど、本当なら夜を待って闇に紛れて救出するのが一番いいと思うんだけど、メイトゥモローさんが一刻も早く助け出したいみたいだから、強硬手段も考えておいた方がいいと思う。強硬手段になった場合だけど、その際の役割は、陽動、主様の救出、救出の援護、見張り兼遠距離援護の役割に分けようと思う。俺は魔法師だし、皆に比べると力が弱いから救出に回るのは無理だろう。なので見張り件遠距離援護を担当しよう。というわけで、残りの役割を3人で決めてほしい。」
「ちょっと待てや。お前ぇの魔法ならあの中の全員を運ぶことだってできんだろっ。お前ぇだって救出役をこなせる筈だぞ。」
「いやいや、あの場所をなんだと思ってるんだ。捕虜を捕まえておく場所だぞ。もし捕虜の中に魔法師がいたら魔法を使われて逃げられるだろ?そんなわけであの場所には魔法が使えなくなる何らかの手段が用意されているはずだ。いや、絶対されている!そうなると俺は魔法が使えなくなって、一般人レベルに成り下がるのだよ。そんな俺が前線に行ってもただの足手まといだろ?だからここは後衛に徹した方が効率が良いと判断したんだ。」
「よく口が回りやがる・・・。言っていることは正しいかもしれねぇが納得できねぇ・・・。」
「はっはっはっ、まぁ頑張ってくれたまえ!さて、救出役だけど、ここは忠実な臣下であるメイトゥモローさんが適任じゃないだろうか?」
「拙者やりたくないでござる。陽動役を引き受けるので救出役は御免こうむる。」
おい・・・、主の為ならばたとえ火の中水の中の精神はどうした?
「いやいや、あんたの主様でしょう。ここはあんたが行くのが筋ってもんでしょう。」
「嫌でござる!拙者あの池には入りたくないでござるっ!」
こいつ・・・あそこに入りたくないから依頼を出したんじゃないだろうな・・・。ちょっと殴りたくなった。
「まぁメイトゥモローさんは保留として・・・水のスペシャリスト、マグロ君。どうかね?マグロにとってはちょっと水深が浅いかもしれないけど、些細な問題だよな。」
「ヨーヘーっ!?いくらなんでもあれを水と呼ぶのはどうかと思うのだがっ!?」
「ほら、同じ液体だし似たようなもんだろう。ちょっと潜って主様を助けてきてくれよ。そして戻ってきたら主様と一緒に10ミール以内に近付かないでほしい。」
「余りにも酷い仕打ちだよっ!?一番の汚れ役に対してそれは薄情じゃないかい!?もっと優しい対応をしてくれてもいいんじゃないかなっ!?いや、行かないけれども!」
「言っとくけど俺様も嫌だからな?」
「ガオー、その筋肉は飾りか?その凄まじいパワーであの檻を壊して主様を助けるのはかっこいいぞ。ほら、奴隷解放する時も似たような状況あっただろ?」
「いや、さすがにあそこまでの扱いをされてた奴隷はいなかったぞ?それに檻を破壊なんてしたら、そっちが目立っちまって陽動の意味がなくなるだろう。それにあの糞が俺様自慢の鬣に絡みつくのかと思うと絶対ぇにあそこには入りたくねぇ。あの中に入るくれぇならここにいる奴等を皆殺しにした方がまだマシだ。」
ちっ、筋肉ネタで揺さぶってもダメか。まぁあれは誰も行きたくないだろう。そうするとどうしたらいいのだろうか。
・・・そういえばウンコマン、もとい主様は意識がないのか糞尿の中に倒れたままだ。
あのままじゃ溺死するんじゃないだろうか?
そんなことを思っていたら、見張りの兵士が溺れないように上から両肩に繋がれた紐を引っ張って顔だけ水面から上げていた。
あれなら窒息死することはないから安心した。しかし、あまりの異臭で呼吸困難になる可能性は捨てきれないな・・・。
すぐすぐ死ぬ状態じゃないだろうが、あれでも結構危険な状態なんじゃないかと思う。
「なぁヨーヘーよぉ、お前ぇの魔法に対象物を入れ替える魔法ってあったろ?アレ使ってみるってのも一つの手なんじゃねぇか?魔法効果が及ばねぇ仕掛けがされてるとダメなんだろうが、失敗しても発動しねぇだけだろ?だったら試してみようぜ?成功すれば強硬手段にでる必要はねぇわけだしよぉ。」
あぁ、スイッチね。たしかにあれなら上手くいけばあの中に入らなくても主様を助ける事はできるだろう。
問題は同じくらいの大きさの物を用意しないといけないことだが、まぁそれは土人形でも作ればなんとかなる。
しかしスイッチにはもう1つ大きな問題がある。
それはスイッチで配置換えする場合、対象物の片方に俺が触れていないといけないという条件があるということだ。
つまり、成功してしまうと俺は必然的にあの排泄物色に染まっているウンコマンにタッチしてしまうことになってしまう。それはなんとしてでも避けたい。
「ざ・わぁるど」で空間支配してしまえばなんとかなるかもしれないが、「ざ・わぁるど」の下準備中、俺は1歩も動けない。
もし魔法察知する奴がいたら魔法を中断して逃げないといけなくなるだろう。
そして警戒度が上がった中で再度救出を試みないといけない状況になってしまう。
スイッチならば空間を魔力で満たす「ざ・わぁるど」とは違い、魔力を対象物まで飛ばすだけなので、察知される可能性はグンと下がる。でも嫌だ。触りたくない。
「いや、スイッチは俺の手のひらに収まるくらいの大きさの物までしか配置換え出来ないんだよ。」
「ウソつけっ!!昔その魔法使って獣人奴隷を何人も助けてたじゃねーかっ!」
ちぃ、覚えていやがったか。脳筋の癖に生意気な・・・。
「そんな魔法があるのでござるかっ!是非お願いしたいでござる!」
うっせーよっ!オメーが素直に救出役やってればウンコタッチしないで済んだんだよっ!調子のいい事言ってるとサンダーランスぶち込むぞ!ホント勘弁してくれよっ!絶対追加報酬貰うからなっ!
俺は主様・・・メイトゥモローさんに合わせて若様でいいか。その若様と大体同じくらいの大きさの土人形を作成するとスイッチ対象に意識を集中し、魔力を飛ばした。
幸いというか不幸にもというか、スイッチの魔力は若様まで到達してしまった。これでスイッチの前提条件がクリアされたということになる。
見張りが紐を引っ張り続けていたらすぐにバレたかもしれないが、紐は木にくくりつけられて固定されていたので、すぐにバレることはないだろう。
はぁ・・・嫌だなぁ。
「アッレー?ウマク魔力ガ繋ラナイナー?コレダメカモシレナイナー。」
「嘘だな。お前ぇが嘘付くときの特徴が出てる。往生際が悪ぃぞ。四の五の言ってねぇでさっさとやれ。」
俺の嘘付くときの特徴ってどんなのだ?教えて欲しい、今後はその部分が出ないように治すからっ!
「うぅ、ちくしょう・・・『スイッチ』」
俺がスイッチを使うと土人形と若様が一瞬で入れ替わった。入れ替わってしまった。
うぎゃあぁぁぁっ!!左手がっ!俺の左手がぁあぁぁっ!!思ったよりベッチョリタッチしちまったぁぁぁぁっ!!
俺の目の前に転移してきた薄汚れた若様は、そのまま力無く倒れこんできた。
普通ならばここは抱きとめるところなんだろうが、これ以上汚れたくなかったので、抱きとめることなく後方にバックステップで退避。
倒れた拍子に飛沫が跳ねる事も見越して10mは緊急離脱した。
若様は意識が無いからか、受身も取らずに地面に崩れ落ちた。変な倒れ方をしてとても痛そうだが、意識が無いみたいだから痛みは感じていないだろうし大丈夫だろう。
今この場にいるのは俺と若様、メイトゥモローさんとガオーとマグロだ。
全員が若様から距離を取っている。
いや・・・俺とかガオー、マグロはわかるんだよ。護衛対象と言っても垢の他人なんだし、率先して糞まみれになりたくないという気持ちは理解できるんだ。
でもさ、メイトゥモローさんは主従関係にあるわけだろ?
あの野郎、口では「若・・・おいたわしや」とか言っているけど、俺は知っている。涙を隠すように顔に添えられた手が実は鼻を塞いでいるということを。
沈痛な表情をしているが、一向に介抱する気が無いというか近付こうとしない。
絶対この人は忠臣じゃないと思う。なんというか・・・こんな家臣を持った若様に同情してしまう。
「つーかよ、アレどうすんだ?今はまだ誰も気付いてねぇようだが、あのまま放っておいたらさすがに見つかるぞ?おいヨーヘー、手なんか洗ってねぇでどうするか決めようぜ?」
うっせーよ馬鹿野郎、手なんかとはなんだ。今現在の最優先事項は俺の左手を洗浄することだっつーの。お前に俺の苦しみがわかるか?わからねぇだろうな!だって俺しか触ってないもんっ!
そんなわけで見つかるかどうかなんて二の次なんだよ。
見つかったら俺が責任持って排除したるわい。
俺は水魔法で勢い良く手を洗い、クリーンで浄化し、更にアルコール殺菌まで行う程に徹底した洗浄を行った。それでもなんか手に付いている気がしてしょうがない。
・・・なんか臭いが残っている気がする。ファブリーも掛けておくか。
いや、いっそ手を切り落としてリバースで戻すか?いや、やっぱり痛いのは嫌だな。アリアがいればペインレスで痛みを緩和してくれるかもしれないが、そんな事で手を切り落とすなんて事を許してはくれないだろう。
「ヨーヘー殿、出来れば若様にも同じ様に洗浄してやってはくれまいか。」
あ~、そうだな。あのままってのも可哀想だし、メイトゥモローさんの若様に対する扱いを見て、なんとか力になってあげたいと思ったところだ。
メイトゥモローさんの要望に従って、若様にも同様の洗浄を行った。
しかし、一瞬だけ触れてしまった俺と違い、彼は長時間漬物状態だったので、身体に染みこんでしまっているみたいだ。
汚れを落として気付いたことだが、皮膚もかなりかぶれてしまっている。
リバースで戻すのもいいが、いつからこの状態なのかわからないので、アリアに治療して貰った方が早いだろう。
アリアに治療させるなら徹底的に洗い流してやらないといけないな。臭いもキツいからファブリーを何回も重ね掛けして徹底的に消臭してやる。
皮膚はかぶれてしまっていて痛々しいが、異臭もなくなり、綺麗な身体になったことが確認出来た。これならもう触っても大丈夫だろう。
「若っ!若っ!お気を確かにしてくだされ!メイトゥモローが助けに馳せ参じましたぞっ!!」
「う・・・うぅ・・・こ、ここは・・・そなたは・・・クラウドホース卿か・・・助けにきてくれたのだな・・・苦労をかけた。」
「何を仰いますかっ!苦労などとは露ほどにも思ってござらぬ。このメイトゥモロー=クラウドホース、若の力になれた事を誉れに思いますぞっ!」
「ふ・・・卿ほどの忠臣に仕えられて私も幸せ・・・だ。・・・これからも私の・・・力・・・に・・・・」
「若っ!若ーーーっ!・・・眠ってしまわれた。」
「「「・・・・・・」」」
なんだろうな、この気持ち。釈然としないというかなんというか。世渡りが上手いというのだろうか。確かに若様を助けようと立ち上がり、行動を起こしたのは彼なのだが、彼の行動は若様が思っているほどに忠臣ではないということを俺達は知っている。若様さん、彼を側近にするのなら、ちゃんと色々と見極めた方がいいと思いますよ。




