131話 共有の袋
街の外に出た俺達は、次の場所へ出発する為に広い場所で魔法の袋から馬車を取り出した。セリアとの旅の間に改良に改良を重ねたから、乗り心地もかなり良くなったし、頑丈に造ってあるので早々に壊れることもないだろう。もし問題があるのだとしたら、あの時代にイノッチ程のパワーを持つ引手がいなかったということだ。つまりイノッチが全力を出したらどうなるかわからないということだね。
というわけで、
「おーい!イノッチーーーっ!!ご飯の時間だよーーーっ!!!」
・・・ドドドドドドド┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッ!!!!
「ブヒーーーーッ!!」
「ウェイト!イノッチウェイト!!ウェイッウェイッウェイッッッウェギャァァァァアアーーーーッ!!!」
吹き飛ばされた俺が地面をゴロゴロと転がることになった。軽く30mくらいな。ぐふっ・・・イノッチ、そろそろブレーキを覚えようか。力一杯走るのはいいんだ。でもゴールが近付いたら減速しよう?ね?ギリギリで止まろうとしちゃダメだ。絶対に止まれないから!
イノッチにご飯を用意して、そのご飯を食べている間に、魔法の袋から取り出した馬車をイノッチに取り付けさせてもらった。
さて、この改良した馬車だけど、なぜ乗り心地が良くなったのかを説明しよう。これは馬車型の魔法の袋なのだ。どんなに振り回しても魔法の袋の中には影響が無いという魔法の袋の特性を利用したのだ。見た目は全長2mくらいの普通の馬車だが、中に入るとマジカルハウス並の広さを誇っている。マジカルハウスと違うことは、空間拡張と空間固定の能力しかつけてないので、扉を閉めても中の時間が止まる事は無いということ。中が揺れない広い箱という馬車になっている。完全に扉を締め切ったとしても、外の景色はペイントで壁に投影しているから、外の様子がわからないということはないし、音も聞こえるようになっている。就寝時はペイントの効果を切ってしまえば外が見えなくなるので、外の魔物が気になって眠れないということもないだろう。ちなみに御者席は魔法の袋の効果はないので、ここに乗ったらジェットコースター気分からは逃れられないだろう。一応気休め程度にシートベルトは付けておいたので、振り落とされるというリスクは減ったと思う。まぁスリルを求めたい人がここに座ればいいだろう。
全員が馬車に乗ったところで、俺も馬車に乗り込むことにした。ガオーは御者席に座るらしい。チャレンジャーな奴め。
「いやな、ベヒモスだぜ?普通こんな近くで見れねぇよ。今まで遠目には見てたけどよ、ずっと近くで見てぇって思ってたんだよ。ガッハッハッハッ」
「後悔・・・するなよ?」
「大丈夫だって、俺様は天獣王様だぜ?乱世を戦い抜いてきた英雄様だ。馬車くれぇじゃ根を上げたりなんてしねぇよ。」
「海に出るまで止まらないからな?泣いてもダメだからな?あえて音声だけ切るから、助けを求めてもわからないからな。」
「くでぇよ。とっとと出発しようぜ。」
「わかった。イノッチ、ルッツ海峡に向かって欲しいんだけど、北の方にあるんだ。北、わかる?あっちの方だよ。」
「ブモルッ」
「オッケーイノッチ!それじゃあお願いね。レッツラゴー!」
イノッチにGOサインを出すと、俺は馬車の扉を閉めた。馬車内からは外の景色が良く見える。後方にはコルベール城、前方には御者席に座ったガオー。その前には前足を蹴っているイノッチ。あ、イノッチ本気っぽい。そしてイノッチが動いた瞬間、景色がブレた。凄いスピードで景色が流れていく。マギルからザクレンまで来た時なんて全然本気じゃなかったんだなぁ・・・。あんなに大きかったコルベール城がどんどん小さくなっていく。前方を見ると、Gに耐えられなかったのか、馬車に縫い付けられているようなガオーが見えた。必死に何かを訴えているようだが、音声を切っているので何も聞こえない。まぁ皆通った道だ。頑張れ。
ガオーから視線を外し、馬車内で寛いでいた皆を確認すると、マグロは姿か見えないからマジカルハウス内に入って、養殖場で泳いでいるんだろう。タァマちゃんは流れる景色を楽しそうに眺めていた。トリスとアリアは武器の手入れをしているみたいだ。アリアの持っている杖を見てみると、やっぱりセリアが使っていた物に似ているな。これがセリアの杖だとすると、1つの可能性が浮かび上がるのだが、まぁ今はいいだろう。それよりも俺はアリアとトリスにあるアイテムを渡そうと思っていた。いい機会だから今の内に渡しておこうかな。これは、ユグドと研究して作り上げた物だ。完成までかなり試行錯誤して色々な仕組みやらなんやらをぶち込んだなぁ。長年研究したけど、結局2人では完成させる事が出来なかった。もう1歩のところまで来ていたんだけど、最後の詰めでどうしても失敗していた。研究に行き詰まりを感じ始めていた俺達だったが、このアイテムを完成に導いたのは意外にもユリアちゃんだった。日頃から俺達の魔法を習ったり、魔道具の研究を見学していたから、基礎知識は備わっていたのだろう。あの子の発送は天才的だと思う。ちょっと話が逸れたか。
「アリア、トリス。ちょっといい?」
「うん?なぁに?」
「なんですか?」
「実はさ、魔法の袋を2人にあげようと思ってね。2人も持ってた方が便利でしょ。」
「え?いいんですか?魔法の袋は実は結構欲しかったんですよ。矢筒代わりにいいと思ってたんです。頂けるならヨーヘーの持ってる念じた物が手に取れる機能を持った物だといいですね。」
「え?これ?あぁ、別にいいけど、渡したかったのはこっちなんだよね。これはユグドとユリアちゃんと一緒に開発した魔法の袋なんだけどね。その機能は、なんと共有機能が付いているんだ!実はこの袋って2つで1つの魔法の袋でさ。どっちの袋から入れても同じ空間に入るんだ!凄いでしょ!」
「へ~、なんかいいね。2つで1つだなんて恋人っぽい感じするね。貰っちゃっていいの?」
「もちろんだよ。まぁそんなに中は広くないから、共有したいなって思った物を入れておくくらいしか出来ないけどね。それで他の人には使えないようにする為に、この共有の袋に魔力を登録する必要があるんだけど。まずはアリア、ちょっと手を出してくれる?」
はい、とアリアから差し出された手を握ると、その繋いだ手を共有の袋の上に乗せる。そして登録の為の特殊魔法を唱えた。
「『ペアライフ』」
淡い光が共有の袋を包み込み、その光はやがて袋に染み込むように消えていった。これでこの共有の袋は俺とアリアにしか使えない。俺は2対の袋の1つをアリアに受け渡した。続いてトリスとも同じ様に魔力を登録し、トリスにも共有の袋を受け渡す。タァマちゃんはまだ小さいからもう少し大きくなってからでいいだろう。
「ふふっありがとー♪」
「こういう物をヨーヘーから貰えるなんて、凄く嬉しいです♪大切にしますね。」
「それとトリスはこの魔法の袋も欲しいんだっけ?あとで複製しておくよ。」
「それも頂けるんですか?うふふ、ありがとうございます♪」
うぐ、トリスの笑顔にちょっとドキっとしてしまったぞ。いかんいかん、俺にはアリアがいるじゃないか。でもトリスも俺に好意を寄せてくれる女の子だ。しかも一生の内に1回しか出す事が出来ないというエルフの御魂を俺に譲渡してくれている。トリスは重く取らなくてもいいと言ってくれていたが、トリスにとっては重いものであることは間違いない。400年前にたくさんのエルフとの付き合いがあったので、それがどういう物なのかも今では理解しているつもりだ。トリスは俺がトリスを受け入れなかったとしても、影ながら俺の助けになる行動を取るに違いない。あの御魂授与とはそういうものだ。
「あー、トリスだけずるーい。」
「いいじゃないですか。あの魔法の袋があれば確実に戦力アップするんですから。矢切れを起こす事も無くなると思いますよ。」
「う~、それもそうだね。じゃあ折角だし貰った魔法の袋には溢れるくらいミスリルの矢を詰めてプレゼントしてもらいましょうよ。」
「うっ・・・、魔法の袋一杯のミスリルの矢ですか。何軒家が建つんでしょうね・・・。多少は慣れたとはいえ、やっぱり非常識です。そして多少は慣れてしまっている自分がちょっと怖くなりました。こんな風に私も常識外れになってしまうんでしょうか・・・?」
「ある物は使えばいいんだよ。大丈夫、ミスリル100%にはしないからさ。矢尻は安価な金属にするし、ミスリル部分は射ったら消えるように細工するようにするから、回収されて市場に影響出るような事にはならないよ。」
「えっ!?ヨーヘーがそんな事まで考えるようにっ!?な、何か悪い物でも食べたのですか?熱があるのでは?」
「おい、トリスの中の俺がどんな奴なのかを詳しく聞かせてもらおうか。」
いや、俺だって長い時間を過ごしましたから、ある程度の常識は身に付けてますよ?セリアに何度も怒られてるからな!まぁ身に付いてるのは1000年前の常識だけどね!・・・多少やり過ぎる事はあるけど、誤魔化せれば問題ないのだ。ちなみにこの矢のアイディアはセリアが考えてくれたものだ。
さて、アリア達に渡したいものも渡せたな。これで共有の袋はアリアとトリスが1つずつ持ち、俺は3つの共有の袋を所持している事になった。なぜ3つかって?アリア用、トリス用、そしてこれを作った製作者であるユリアちゃん用だ。ユリアちゃん用の共有の袋については今後使う事はないだろう。これはユリアちゃんの大切な形見の様なものなのだから、大切に保管しようと思う。
イノッチが爆走を始めて3時間が経った頃、御者席に座るガオーは微動だにしない。まるで真っ白になってしまったボクサーのようだ。そのガオーより前方を見ると、遠くの方に海が見えてきた。もしかしてあれがルッツ海峡がある海なのかな?
更に近づいていくと、海の向こう側に陸地が見える。ということはここがルッツ海峡なのだろう。でも対岸まで結構あるぞ。どれくらいあるかは見ただけじゃわからないけど、少なくとも泳いで渡れる距離じゃない。でも船とか出て無さそうだしなぁ。どうやって渡ろうかな。まぁ対岸は見えてるわけだし、ここは疲れるのを我慢してテレポートで対岸まで行くしかないか?
・・・ところでイノッチ?なんで減速しないの?もう海が目前だよ?このままだと突っ込むよ?ねぇイノッチ?そろそろ止まろう?ねぇ、ねぇ!イノッチ!?このまま行くの!?えっ!?突っ込むの!?イノッチ泳げたの!?
イノッチは減速することはせずに、その勢いのまま海へと飛び込んだ。I Can Fly!!というテロップが出るんじゃないかという程の迷いの無い綺麗な飛び込みだった。猛スピードで突っ込んだものだから、凄い水しぶきを上げて海を割る俺達の馬車。イノッチの掻き分けた海水が左右に避けて、まるで海が道を作っているように見える。凄い!凄いよイノッチ!!
・・・等と感動していたら、馬車は一気に減速してしまい、ほぼ止まってしまった馬車と、水をうまく掻けずにあっぷあっぷしてるイノッチがいた。
・・・泳げないんかぁぁぁぁーーーいっっっ!!どうして飛び込んだんだ!?
次回の更新ですが、友達の結婚式の余興を頼まれてしまい、そちらの準備や練習がある為、土曜日の更新は難しいと思います。進行具合によっては25日の本番が終わってから書く事になるので、もしかしたら4月中は更新出来ないかもしれません。なるべく速く溺れているイノッチを助けますのでご容赦ください。




