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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
帰ってきたグロスティア編
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127話 帰ってきた

お待たせしました。

この話は三人称で進めさせていただきます。

「ヨーヘー?}


アリアの声が虚しく室内に消えていく。


「ウソ・・・?ウソだよね?ねぇヨーヘー!どこ?どこに隠れてるの!?」


アリアは探す。そこにいて欲しいの願う人物を。5分程探していただろうか。室内のどこにも洋平の姿が無い事を確認してしまったアリアは、先程の光景を思い出す。灰色の球体に吸い込まれて消えていくユグドの事を。そしてそれに続き、吸い込まれて消えていく洋平のことを。

ユグドは言っていた。1000年前の時代に行くと。洋平もユグドが消えた球体に吸い込まれた。つまり洋平も1000年前の時代に行ったしまったと考えるのが普通だろう。事実、どこを探しても洋平は見つからないのだから。

しかしそんな現実を受け入れたくないアリアは洋平が消えた場所の床をその手で掘ろうとする。


「ヨーヘー!出てきてよ!ねぇヨーヘー!嫌だよっ!こんなお別れなんてないよ!ヨーヘー!ヨーヘー!」


床を掻き毟るアリアの手は爪が欠けて血で濡れていた。しかしそんなことは気にならないかのように傷ついた手で愛する男を探す為に床を掘ろうとする。


「ヨーヘー・・・ヨーヘーがいなかったら私・・・私・・・。」


床を掘っても彼が出てくることは無いということはアリアにもわかっていた。しかし認めたくなかった。現実を受け入れたくなかった。ただ消えてしまった場面をアリアは目撃してしまっている。それはもう洋平は遠い、絶対に手の届かないところに行ってしまったということ。地球に帰ったのならば、まだ再会の可能性はあった。異世界転移の方法を見つければいいのだから。しかし洋平が行ってしまった場所は千年前なのだ。今この時点で洋平はすでにこの世にいないということを理解してしまう。千年生きられる人なんていないのだから。今ならユグドの気持ちがわかってしまう。時間に恋人を奪われてしまったその気持ちが。もう洋平に会えないという絶望がアリアを支配していく。

ゆらゆらと危なっかしく揺れるアリアだったが、手のひらを自分の顔に向けると、その手に魔力を集めだした。それが何を意味するのかをいち早く気付いたトリスがアリアに飛び掛かり、そのまま拘束する。


「アリア!落ち着いてください!そんな事をして何になるのです!?」


「離してっ!ヨーヘーのいない世界なんて、ヨーヘーのいない・・・ヨォォ・・・ヘェェェ」


「ヨーヘーがいなくなってしまったのは確かに悲しいことです!でもそんなにすぐ諦めてしまっていいのですかっ!?憤怒の・・・ユグドさんは諦めずに再会の方法を捜し続けたのでしょう!?」


「お兄ちゃんは天才だもの!その天才のお兄ちゃんですら今まで駄目だったのよ!!そんなの誰にだって無理じゃない!ましてや私なんかじゃ・・・。それにあの道具はもう使えないもの!もう、もう嫌ぁ・・・」


自身の無力さを嘆いてか、床に突っ伏して嗚咽を洩らし始めた。トリスはアリアにとって洋平がどれだけ大きな存在であったのかを痛感する。トリスの知るアリアはここまでメンタルが弱いとは思っていなかった。洋平の事をどれだけ支えにしていたのだろう。彼がいなくなってしまったことで自らの命を絶とうとしてしまう程にアリアは打ちのめされてしまったのだ。

タァマちゃんが取り乱すアリアを心配そうに宥めようとしているが、アリアはその事に反応すら出来ない。タァマちゃんも大好きな洋平がいなくなってしまった事にショックを受けて大粒の涙を瞳に溜めていたが、自分よりも取り乱すアリアを放っておけないと考えたのだろう。このままではアリアまでいなくなってしまうんじゃないかと思うと、泣き叫びたいのをグッと堪えてアリアを守る為に彼女の背中を包むように抱いて慰めていた。


「そこに過去にいける魔道具があるじゃないですか。それをもう一度使えるようにしましょうよ?そもそもヨーヘーはなんでその魔道具を持っていたんです?」


「・・・ミイ師匠・・・はっ!ミ、ミイ師匠ならヨーヘーを助ける方法を知ってるかも!」


希望の光が見えた事でアリアの瞳に生気が戻ってきたことを確認したトリスは密かに安堵する。


「アリア、辛いのはわかります。私だって辛いのですから。アリアにとってヨーヘーはとてつもなく大きな存在なのかもしれません。でも自らの命を絶とうとするのはやめてください。ヨーヘーを失った上にアリアまで失ってしまったら、残される私達は更に悲しいじゃありませんか。」


「ご、ごめんなさい・・・あの、トリス怒ってる?」


「はい、凄く怒ってます。アリアには後でお仕置きが必要ですね。私にも謝ってもらいますが、今はタァマちゃんに謝ってください。タァマちゃんだって、アリアと同じくらい悲しんでいるはずなのに、貴方を労わり続けたのですよ。」


「ご、ごめんねタァマちゃん。」


タァマちゃんはアリアが元に戻った事に安心したのか、大声を出して泣き出した。アリアはオロオロとしつつ、タァマちゃんを宥めようと必死のようだ。トリスはタァマちゃんに謝るアリアを見て、精神的に危険な状態は逸したと判断した。そして今後どう動くかを考えた。アリアの話では洋平とアリアの師匠が、洋平との再会の鍵を握っていると見ていいだろう。それならばミイ師匠の住んでいる場所に行くのが最優先事項であると考える。


しばらくするとタァマちゃんが落ち着いてきたので、洋平と再会する為にミイ師匠に会いに行く事を提案したトリスの意見にアリアとタァマちゃんも賛同する。善は急げとばかりに部屋から出ようとしたとことで、タァマちゃんから声が掛かる。


「お魚さんは置いていくますか?」


「「あ」」


どこまでも空気な男トロ=オーマ。忘れられそうになったことをタァマちゃんに気遣って貰ったことを知った魚人は、より一層タァマちゃんを敬うようになるのだった。


トロを起こし、改めて部屋から出ようとしたところで、部屋の廊下から人が近付いてくる気配を感じて足を止める。討伐隊が突入してきたのかと思い、わずかに体が緊張する一同。気配の数は2つ、何やら話しながら近付いて来ているようだ。


「こ、この声って・・・」


呟いたのはアリアだった。やがてこちらに向かっていた気配が部屋の入口から姿を現す。


「アリア!!」


「ウソ・・・なんで?ヨーヘー?」


「会いたかった!!ずっと会いたかった!!千年の時を越えてアリアに会いに戻ってきたよ!」


「・・・っ!!ヨーヘー!ヨーヘー!!」


2人はお互いに抱き合って涙を流して再会を喜んでいる。そこにタァマちゃんが洋平の足に抱きつき、トリスも後ろから洋平を抱きしめた。トロはフッと笑った後に4人まとめて抱きかかえようと手を広げて近付いたところで、洋平が発生させたバリアに阻まれる。

しかし、そこで諦めないのがトロという魚人だ。洋平が抱けないならバリアでもいいとばかりにバリアにへばりついて頬擦りをする始末。遠くからみたら何をやっているのだろうと10人が10人首を傾げるだろう。


「やっと、やっと抱きしめられた。ホントはさ、アリアのことずっと見てたんだよ。アリアに出会った時からずっと。」


「え?どういうこと?」


そこで洋平がアリア達に話した事は驚きの連続だった。ユグドと一緒に千年前に行ったこと。実はユグドと洋平がユードとヨウフェだったこと。セリアとの旅のこと。天獣王の手助けをしたこと。リバースで年齢調整をしていたこと。魔法の袋で千年の時間を越えたこと。去年の5月くらい前に目覚めて洋平とアリアの出会いからずっと見守り続けていたこと。


「それならどうしてすぐに出てきてくれなかったのよぉ。すっごく・・・すっごく心配したんだからぁ。」


アリアの涙は止まらない。感情を抑えつけることが出来ない。かなり取り乱してしまった自覚があり、自らの命まで絶とうとした事を思い出す。今思うとゾッとしてしまう。あの時トリスが止めていてくれなかったら、こうして洋平との再会は叶わなかっただろう。そんな経緯もあり、洋平がすぐに登場しなかったことに対して筋違いとは感じつつも恨み節が出てしまう。


「ご、ごめん、あんまり近付き過ぎるとユグドに気付かれると思ったんだよ。ユグドの気配が消えたのを確認してからこっちに向かったからさ・・・。」


「ばかぁぁぁ・・・。」


洋平が時空の彼方に消えてからのアリアの行動をトリスから耳打ちされ、洋平の顔色はどんどん青くなっていった。


「アリア!俺は絶対にアリアの前からいなくならないから!例えどんなに遠くに行ったとしても、絶対にアリアのいるところに戻ってくるから!だからもうバカな事は考えないでくれっ!」


「うん・・・わかった。ごめんなさい・・・」


「トリスもアリアを止めてくれてありがとう。トリスがいてくれて本当に良かった。それにタァマちゃんもありがとね。」


「ヨーヘー・・・うぅ、私も凄く心配したんですからね。アリアだけでなく私も抱きしめてください。」


「ふみぃぃぃぃっ、ふみぃぃぃぃぃっ」


洋平はトリスの要望通りに彼女も抱きしめ、最後にタァマちゃんを抱き上げた。洋平にとっては千年ぶりの再会。実際には魔法の袋の中で、時の流れを遮断しつつ過ごしたので、千年待ったというとそうでもないのだが、セリアとの旅に10年、ガオウに付き合ってこれも約10年、加えて番人をしてくれていたガオウにリバースを掛け直すべく、ちょくちょく魔法の袋から出て来ていたりした。その間、彼女等の事を忘れた事は無く、常に再会を夢見て行動していた。半年前に異世界に転移してきたばかりの洋平とアリアが出会った場面を目撃した時は、自分を抑えきれずに思わず飛び出てしまいそうになったが、ガオウになんとか止めて貰い、今日まで我慢してきたのだ。洋平の心境としては言いようの無い達成感というか、充足感を感じていた。

すると、存在を忘れられている者が1人、ゴホンというわざとらしい咳払いをすると、全員の視線が彼に注目する。


「えーっと、どちら様?」


アリアが咳払いをした獅子族の男性を見て、洋平に訊ねる。洋平と一緒に登場したのだからその判断は間違っていない。


「んっと、こいつはガオー。さっき言った話の中に出てきた奴で、一応天獣王だよ。」


「はぁ!?え?天獣王ってあの?あの天獣王?晩年は行方を眩ましたって言われてたけど、ヨーヘーが誘拐してきちゃってたの?」


「誘拐とは人聞きが悪いんじゃないかな!?こいつは俺と離れたくないって言って泣くもんだから、仕方なく連れてきてあげたんだよ。」


「おいっ!俺様がいつそんな事言って泣いたってんだ!?いい加減な事言ってっとぶっ飛ばすぞ!!・・・へぇ、嬢ちゃんがアリアか?ヨーヘーがいつも会いてぇ会いてぇってうるさかったぜ。ふーん?近くで見ると整った顔してるみてぇだし、美人なんだろうな。まぁ俺様は人族にはまったく魅力を感じねぇんだけどな!がっはっはっはっ!おっと、自己紹介がまだだったな。俺様はガオウ。俺様が天獣王だからって敬語はいらねぇよ?ヨーヘーみてぇに普通に話してくれ。」


「えっと、私はアリア=イグニスです。あ、敬語じゃない方がいいんだっけ?」


「私はトリス=フェラーラです。私の敬語は癖みたいなものなので、あまり気にしないでくださいね。」


「ほう、ユーがあの有名な天獣王なのかい?ミーはトロ=オーマという。えーっと・・・そう、蒼魚王のトロという!よろしく頼むよ!なーはっはっはっ!」


ウソをでっち上げてでも無駄に張り合う男トロ=オーマ。ガオウは初めて聞く二つ名だか称号に対して洋平の顔を見て確認するが、洋平は首を横に振って相手にするなと言っているようだ。実際、洋平が目覚めてからの半年間、ガオウも洋平と一緒にストーキング紛いの事をやってきたので、トロがどういった人物なのかはわかっているつもりだ。


「にゃぁ!タァマはタァマです!よろしくお願いします!」


「おぉっ!遠くからは見ていたけど、近くで見るとすっげぇ可愛いなっ!おいでおいで、お兄さんと遊ぼうぜ!」


「にゃぁ?おじちゃんは天獣王にゃのですか?」


「オジ・・・お、おうよっ!俺様が天獣王のガオウ様だぜっ!」


「にゃぁ!本で読みました!大好きなお話です!にゃぁぁぁ、おじちゃんが天獣王~♪わーい♪」


「・・・おいヨーヘー。この可愛すぎる嬢ちゃんはなんなんだ?もの凄ぇ持ち帰りてぇんだが・・・。」


「幼女相手に盛ってるんじゃねーよ。タァマちゃんに手を出したら、いくらお前でも消すからな。」


「お、おい、冗談だよ。お前ぇ目がおっかねぇよ。俺だってこんな子供に手を出す程見境がねぇわけじゃねぇぞ。ちゃんと大人になるまで待ウオォォォォッ!!?っぶねぇ!!お前今ガチで殺る気だったろっ!?」


ガオウが喋ってる途中で、高密度に圧縮された火の玉が彼のいた場所を通過する。ガオウが避けなければ確実に火達磨になっていたことだろう。


「アリア、盛った猫ってのは虚勢すれば大人しくなるんだっけ?」


「そうだね。それで大人しくなるって聞いた事あるよ。」


「待てっ!待ってくれ!お義兄さんお義姉さん!ジョークじゃねぇーか!可愛いアニモージョークじゃねーか!そこは笑って流してくれよ!?」


そこからガオウを的にした魔法演習が始まった。洋平だけでなくアリアも魔法を撃ち込んでいた。何発か貰っていたようだが、そこはさすがの天獣王。強靭な肉体でもって、致命傷だけは負わないように逃げ続けるのはさすがだった。




所々身体を焦がして、息も絶え絶えで大の字になって床に転がる天獣王。その姿からは王者の風格は垣間見えない。

そんな彼を心配したのか、タァマちゃんが走り寄って行き、出来たばかりの怪我を確認している。


「フッ、タァマ嬢は優しいな。将来俺様んとこに嫁にグファ!?」


洋平から放られた重力魔法によって、体重を何倍にも増やされたガオウはその強靭な肉体を床に縫い付けられ、指一本動かせないようだ。


「にゃあ、タァマは将来お兄ちゃんのお嫁さんににゃるますっ!」


「ぐ、ぐふっ・・・」


奇しくもガオウが受けたダメージの中で一番の威力を発揮したのがタァマちゃんの言葉であった。洋平とアリアによる無慈悲な攻撃にもなんとか耐え切った肉体は、この一言によって脆くも崩れるのだった。


無事に帰って来れました。

更新についてですが、水土に更新出来たらいいなと考えています。

遅くとも1週間以内には更新をしようと思っていますが、出来なかったらごめんなさい。

次回からはまた洋平君視点に戻ります。

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