Ninth.
彼が自宅へ帰ったのは明け方のことだった。
彼は、酷く疲れていた。
珍しく取り乱し、叫びまくったからだ。
彼はパソコンを開く。
依頼のメールが山ほど届いている。
「来年もまた払えるように頑張るか…。」
彼は、気合を入れてメールを開いた。
最初に某携帯会社の社長。
繋がるとか言いまくってるのに繋がらない。
その事に腹がたったらしい。
ちなみに、射殺。
頭を一撃で終わった。
次に学校の教諭。
とにかく、ウザいから殺せと言われた。
俺は、依頼通りに教諭を殺した。
ちなみに、撲殺。
殴り過ぎて目玉が少し飛び出た。
もちろん、依頼した女子生徒にも痛い目に合わせた。
ウザいだけで殺せとは…
近頃の若い生徒には少しキツイ位が丁度いい。
次にモンスターペアレント。
学校に理不尽なことばかり押し付けるから殺ってくださいと頼まれた。
ま、詳しく聞いていて俺も腹が立ったから徹底的に殺った。
殺害方法は冷凍庫に1週間保管して凍死させた。
この為に大型冷凍庫を買った。
死体の写真はモンスターペアレントのグループのバカ親たちに送りつけた。
翌日、学校に謝罪の電話が来たらしい。
次にバスを爆破した。
これは、爆破されたバス会社のライバル会社が依頼した。
もちろん、多数の犠牲が出た。
「ふぅ…すこし殺り過ぎたな…。」
たった1ヶ月のうちに何人もの人を殺してきた。
しかし、金は1億しか貯まんなかった。
「こんなんじゃ、良一の治療費が足りねーよ…。」
俺は唇を噛み締めた。
今夜も彼は仕事をした。
上司、部下、先輩、後輩、先生、生徒、浮気した彼女…
1年間で色々な人を殺ってきた。
最近は、少し問題とか気に入らないことが起きるとすぐに死ねだの殺すなど言う。
殆どが冗談で終わるが、一部の人間が本気で殺ってしまう。
それを自分の手で出来ない弱者が俺のような殺し屋を頼る。
「ま、俺にとっては収入が増えるからいいんだけどな。」
俺は笑いながら言った。
ある雨の降る日。
俺の携帯が鳴り響いた。
ディスプレイには『病院』と書かれている。
…まさか、良一が死んだのか?
俺の脳裏に不安が過る。
「出たくないな…」
俺は携帯を裏返して着信音を止めた。
しかし、俺は気になったから出た。
「…もしもし。」
俺は暗い声で言った。
「良一くんの意識が戻りました!!今すぐ病院に来てください!!」
医師が興奮気味に言う。
俺は急いで外出の準備をし大慌てで車を飛ばした。
ちなみに車はホンダのCR-Z。
病院まで約300kmある。
この道を2時間で走った。
病院につく頃は雨もやみ遠くの空に虹が架かっていた。
俺は駐車場に車を止め、ダッシュで良一の病室目掛けて走った。
「良一!!」
俺は叫んだ。
「…涼介か?」
良一が言った。
久しぶりの良一の声。
声は少し変わっていたが雰囲気は昔のままだ。
聞くだけで涙が溢れる。
「良かった…意識戻って…。」
俺は涙に鼻水まで垂れていた。
「おいおい、そんな汚い顔で俺に近づくなよ。」
良一が微笑みながら言った。
俺は落ち着きを取り戻した。
「後藤医師に聞いたんだけど、今までの治療費ってお前が払ってたんだってな。」
「あぁ。でも、気にすんな。お前を病気にさせた原因は俺にあるんだから。」
俺は悲しい顔をした。
「…まだ、気にかけてくれてたんだ。」
彼は真顔になった。
「あぁ。本当に悪いことをした。ごめん。」
俺は良一に頭を下げた。
「…ホントだぜ。」
良一が窓の外を向いた。
「俺が親からDVを受けていたのは事実だし、苦しんでいたことも事実だ。でも、それでも親のことを殺して欲しいって思うはずがないだろ!!」
良一は泣きだした。
俺は言葉を失った。
良一の本音を聞くのは初めてだった。
「お前に許してとは言わない。でも、俺にできることならなんでもするからさ、言ってくれ。」
俺はまた頭を下げた。
「…じゃあ、両親を返して。」
良一が言う。
「無理だよ。」
俺は言う。
「…冗談だよ。」
良一は笑いながら言った。
もちろん、本当の笑顔ではなく作り笑いだ。
良一は昔から周りの空気が読める男だった。
でも、長く付き合ってくるとなんとなく分かるようになってきた。
「なら、今後もさ俺のために金銭面の援助を頼むよ。こんな状態じゃまだ社会復帰は無理だからさ。」
「当たり前だ。俺はお前のためなら人殺しでもしてやる!!」
俺は真顔で言った。
「冗談はよせよな~」
良一は笑った。
今度は本気の笑いだった。
「冗談じゃないぞ!!本当に殺してるぞ~」
俺は悪役が悪巧みをしているような感じで笑った。
もちろん、良一でさえ彼の正体を知らない。
『殺人鬼』という正体を。
金…
いや、良一のためならどんな人でも殺す。
しかし、バレるのも時間の問題だと彼自身も気付いていた。




