Seventh.
「なんで…」
彼は驚きと感激で頭が混乱していた。
「なんで、友梨が……生きてるんだよ!!」
友梨…
そう、彼の奥さん…
昔、依頼によって彼の手によって殺された奥さん…
「俺、確かにあの時お前を殺したはずだ…」
彼は動揺した。
あの時は泥沼に嵌った女が毒殺しろと言われたから、毒で殺った。
もちろん、彼自身で死んだことも確認していた。
「ごめんね、涼ちゃん。でも、これには事情があったの。」
友梨が事情とやらを話しだした。
「私が涼ちゃんと結婚する前から私は闇組織に関わってたの。本当は生涯結婚するつもりは無かったんだけど、上司が一度は恋愛を経験しとけと言うもんだから恋をしてみたの。そのパートナーがあなた…つまり、涼ちゃんだったの。本当はね、結婚して1年ぐらいで組織に帰る予定だったの。でも、涼ちゃんとの生活が本当に幸せだったからついつい延長しちゃったの。でもね、ある日から闇組織間の戦争が始まっちゃって組織に帰るように言われたの。でも、自分に踏ん切りがつかなかったの。だから、仲間に頼んで涼ちゃんに依頼を出してもらったの。もちろん、毒で殺されるのは知っているわけだから対策はしてたの。だから、今でもこうやって生きてるってわけ。」
俺は、冷静さを取り戻した。
「…全く知らなかった。」
友梨が組織に属してたこと。
裏で戦争が起こってたこと。
そして、死んだと思っていた妻が生きてたこと。
「…はは、脳みそがフィードバックしたぜ…」
「ごめんね。いきなり重い話をして。」
「いやいや、重い話には慣れてるから大丈夫さ。ところで、よく俺の居場所がわかったね。」
「…組織の方から連絡があってね。君の旦那が危険な目に合うかもしれないから見守れって言ったから衛星使って確認してたの。そしたら案の定、危険だった。」
俺を助けようとする組織…
妙な引っ掛かりを覚えたが、あえて首を突っ込まなかった。
「ありがとう。」
俺はそういって友梨を抱きしめた。
「友梨のお陰で俺は命拾いしたよ。本当にありがとう。」
「どういたしまして。」
抱擁を解除して、彼女が言った。
「もう、行くのか…」
俺は少し残念そうに言った。
「…うん。」
「そうか…。また会おうな!!」
「うん!!」
俺は彼女が見えなくなるまで手を振った。
そして、彼女の後ろ姿を脳裏に焼き付けた。
もう、二度と彼女とは会えないと悟ったから。
「遅くないですか?野田警部補…」
「様子を見に行くか!!」
そう、軽い気持ちで地下道を歩く2人の警官、大島と後藤。
しかし、彼らの表情が青ざめるまでそんなに時間はかからなかった。
彼らの泣き叫ぶ声は街中の防空壕から漏れだした。
「大島。犯人の顔を見なかったのか?」
翌日から取り調べが始まった。
「いえ、僕は何も見てません。あの部屋は暗くて顔を認識することは不可能です。」
大島は答えた。
大島の言うとおり、あの部屋は電気がなく薄暗い。
顔などの細部は見えるはずがない。
「…証拠が1個も無い……」
とうとう、この事件は迷宮入りすることになった。
彼の地下室に1枚の新聞記事が飾ってある。
『少年、友人の両親を殺害!!動機は「友達を救うため」』




