Fifth.
「止めてください!!お金なら払いますから!!」
「払うべき人が違うな。残念だな。」
彼は、躊躇なく彼女にガソリンを飲ませる。
その時点で意識を失っている。
そして、火をつけた。
『徳永明子にガソリンを飲ませて燃やせ。』
「最近の恨みは重いんだな。」
俺は、初めてガソリンを飲ませて殺した。
「ガソリンって美味いのかなぁ…」
俺は、本気で徳永に聞けば良かったと後悔した。
家に帰ると待ってくれる人がいる。
それだけで安心感が湧く。
ただ、俺の場合は人ではなく猫。
俺は、無類の猫好きだ。
「ニャン吉。ただいま。」
俺は、猫に言った。
ニャーっと可愛い声をあげる。
これだけで疲れが癒される。
撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし、餌がほしい時は鳴いて呼ぶ。
こんな、普通なことが俺にとっては究極の癒しだ。
俺はニャン吉に晩飯を食わせてから俺も夕食を摂る。
人を殺したあとの飯は不味い。
食べ物と死に際の姿が重なる。
「はぁ…」
普通のカップ麺なのに不味く感じる。
「ごめんください。」
深夜なのにお客が来た。
俺の店は基本的に24時間営業だ。
「どうなさいました?」
「携帯の調子が悪くなっちゃいまして…」
「貸してください。」
そう、俺の店の1階はauの代理店だ。
とはいえ、あまり客は来ない。
「うーん…これは、寿命ですね…」
「そうですか…」
「修理に出すより機種変した方がいいでしょう。」
「お願いできますか?」
「はい、機種はどうなさいます?」
そう言って、俺はauのカタログを取り出した。
「では、このXperiaで。」
「分かりました。ただ、今夜はauの事務処理ができないので使えるようになるのは明日の9時以降になりますので」
「はい。」
そう言うと、客は嬉しそうに帰った。
俺は、そういう客に弱く機種代を請求するのをよく忘れる。
お客が帰ったあと、そんなに時間が開かないうちに次の客が来た。
「こんばんは。本日はどうなさいましたか?」
「…殺ってください。」
「地下へ。」
俺は、店員から殺し屋へと変貌した。
「で、内容は?」
俺は、本業モードで問いかける。
「ターゲットは田中良太郎。現在、空手の監督をしている。ただ、殺しはしないでくれ。首を折ってくれ。それであいつの人生を狂わせてやりたい。」
「田中良太郎…空手…。」
俺は、動揺を隠せなかった。
それは、小学生の頃。
猫を解剖した友達…。
その友達こそが田中良太郎。
空手が上手かったことを覚えている。
ただ、空手とは裏腹に中二病で絡むのが怠かった。
でも、友人は田中しか居なかった。
でも、解剖されてからは喋ることも無かった。
あの日以来、田中のことを恨み続けていた。
「丁度いいや。」
俺は、思わず口に出していた。
「お客さん、もしかしたら貴方の思うような結果にならないかもしれません。」
「それはどういうことですか?」
俺は、ニャン吉を連れてお客の前に座った。
「私はね、無類の猫好きなんですよ。」
「はぁ…?」
お客は不満そうな顔をしている。
「私は昔から猫が好きです。そして、田中良太郎は私の友達だったのです。しかし、そいつは私が大事にしていた猫を解剖したのですよ。」
「そうなんですか…」
「だから、私は今回は恨みで殺すかもしません。いえ、殺すでしょう。」
これを聞いた客は笑った。
「殺人鬼が猫好きとは笑えますね。いいでしょう。本当は人生を狂わされて苦しむところを見たかったのですがね…」
「ありがとう。」
「ただ、条件があります。まず、お金は払いません。そして、殺し方はこの世で一番苦しい殺し方でお願いします。」
「分かりました。では、明後日にでもやりましょう。」
俺は、いつも以上に念入りに準備した。
俺は、田中を母校へ呼んだ。
連絡先はお客から貰った。
「おい、お前は…。」
どうやら、田中は俺の名前を忘れたらしい。
もちろん、俺も自身の名前は忘れた。
「お前、覚えてるか?」
「何を?」
「俺の大事にしていた猫を解剖したよな。あの時。」
「クックックッ…我の記録には残っていない……。」
「はぁ…相変わらずお前はな…。」
「クックックッ…。おい、お前何をしているんだよ。」
俺は、手術用のメスを取り出した。
そして、田中を拘束した。
「それで何をするんだよ…。」
「俺さー最近、解剖にはまっててさ。特に、人間の臓器に興味あるんだ。」
そう言って、俺は田中の服を脱がした。
「や、止めろっ!!!」
しかし、俺は動じない。
「クックックッ…止めないとお前を闇の世界に葬るぞ…。」
「俺は大丈夫だ。お前に葬られる前にお前を葬る。」
そう言いながら俺はメスを握りしめた。
「術式開始。」
俺は始めた。
麻酔のない手術は痛むらしい。
それを物語った田中はもう息をしていない。
俺は、体中の臓器を外しては着けてを繰り返した。
そして、最後に心臓を外した。
その時点で息を引き取った。
手術中、田中は声を張り上げていた。
喉が引き裂かれるぐらいに。
俺は、悲しくなった。
唯一の友達を殺した。
違う。
殺された猫の苦しみが分かった。
だから、涙が流れた。
しかし、俺は溜まり過ぎた恨みのせいでミスを犯した。
あんだけ田中は叫んだのだ。
そして、外は静寂の夜。
外が真っ赤に染まっていた。
これは、血ではない。
何人もの人を殺してきた俺だ。
間違うわけがない。
「これは…パトカーか…。」
そう、母校の周りはパトカーで埋まっていたのだ。




