Second.
「ふぅ…」
彼は少し疲れた様子だった。
夜風に紛れて血の生臭さが周囲に漂う。
「さすがに…ね。」
彼にとっても今回の仕事は鬼畜だった。
『XX株式会社の社員全員を殺れ。方法は刺殺のみ。』
そこの会社は小規模な会社で、そんなに社員はいなかった。
とは言え、全員をナイフだけで殺るのは荷が重かった。
しかし、依頼通りに仕事をこなすことが彼のスタイル。
そのスタイルを押し通すためにとにかく殺しまくった。
「とはいえ、この依頼主はどんだけここに恨みを持ってんだよ。」
彼はふと呟いた。
「今日は、暇だな。」
俺は1人しかいない部屋で言った。
時々、孤独感に悩まされる。
しかし、俺のスタイルに相棒はいらない。
「ま、殺し屋にも休日は必要だよな。」
そう言い聞かせると、以前の仕事でもらったパソコンで遊びだした。
しかし、殺し屋に休日などなかった。
日が沈み、周囲が暗くなった頃にお客が来た。
スーツに身をまとった優しそうな男だった。
「ここは、あなたの来るような店じゃないと思いますが。」
俺は丁寧に言った。
こういう奴に正体がバレるとまずいから、早く帰したかった。
「…殺って欲しい人がいるのです。」
「…地下へ。」
俺は仕事ードへと切り替えた。
「あなたの妻をですか。」
「はい。」
地下に行き、仕事の話を始めた。
概要は、今の妻に騙されているらしい。
男は気づいてないふりをしているが、明らかに金を何処かへ移されているとのこと。
俺は推測した。
多分、男の妻には正式な旦那がいてそいつにお金を流している。
男も同じ事を推測し、妻を恨んでいる。
そして先日、遂に妻から離婚届を差し出された。
男は我慢の限界を覚えた。
だから俺に依頼をしてきた。
「で、方法は?」
「自殺を装ってください。細かくは問いません。」
「自殺…私の得意分野です。」
…違う。
彼は嘘を言った。
確かに、自殺を装うのは別に問題はない。
妻をって部分がダメなのだ。
彼が、殺し屋になった頃。
彼には妻がいた。
もちろん、妻は優秀な相棒だった。
お互いを愛しあい、支えあった。
しかし、妻を彼は殺した。
ただ、個人的な理由ではない。
依頼だったのだ。
妻が引き受けた仕事で殺された女の彼氏から依頼され、女を殺すように指示した男と殺したやつを殺せと。
彼はすごく悩んだ。
もちろん、妻にも相談した。
しかし、妻が言った言葉は彼の予想に反していた。
「殺しなさい。私を。依頼なんでしょ。あなたのスタイルはどんな依頼もこなすこと。なら、断っちゃダメ。」
彼は、妻の決意を受け入れた。
そのせいか、妻を殺して欲しいという依頼には少し抵抗を感じている。
「どうしましたか?」
男が俺に問いかける。
「いや、昔のことを思い出してて…」
「では、よろしくです。」
そう言うと、男は階段を登ろうとした。
「待て、後悔はしないか?」
俺は言った。
「…分かりません。」
男は少し悲しそうに言った。
俺は、着々と準備をすすめ行動に移した。
結果、上手くいった。
警察も自殺で捜査を終えたと男から連絡があった。
しかし残念なことに、殺せと依頼した男も2ヶ月後に逝ってしまった。
もちろん、自殺。
たとえ騙されていたとはいえ、男にとって妻はなくてはならない存在になっていったんだと思う。
そのことに失ってから気付いた。
いや、薄々気付いていたけど後に引けないと悟ったのだろう。
彼は、自分の過去を思い返す。
あの時、妻を殺さなかったらどうなっていたか。
仲良くやっていたのだろうか。
分からない。
分かることといえば、死体の見過ぎで一緒に美味い飯を食えなくなっていたってことぐらいかな。
そう言って、今晩も仕事へ向かうのであった。




