Murder of the First and Last.(First Part)
「良一、放課後俺ん家に来い。」
俺…井上涼介は言った。
「…分かった。」
良一はすこしビビった感じで答えた。
放課後になった。
俺と良一は俺ん家目掛けて走った。
「で、なんで呼んだんだよ。」
着いて30秒もしないうちに良一が聞いた。
「お前、親から暴力されてるのか?」
俺は単刀直入に聞いた。
「そんなことねーよ」
良一はあっさりと答えた。
まるで、卓球のサーブをフリックで打つかのように。
「でも、見たんだよ。お前の背中に痣が沢山出来ているのを…。」
良一が一瞬、戸惑った顔をしたがすぐに睨みつけてきた。
「いつ見たんだよ。」
「先週の真ん中ぐらい。」
「…。」
良一は黙り込んだ。
しばらく、沈黙になる。
外の若いカップルのキスの音が聞こえるぐらい静かになった。
「安心しろ。俺がお前の親を殺してやるから。」
俺はあまりにも人間離れしたことを言っていた。
「止めろっ。」
良一が俺を殴った。
良一と関わりだしてから初めて殴られた。
「ダメだ。このままじゃお前が死んじまう!!」
そう言うと俺は走りだした。
外は雨が降り出していた。
しかし、俺は気にせず走った。
もちろん行き先は良一の家。
両親を殺しに…。
…っと言ったが俺はチキンだ。
到底そんなことはできるはずがない。
だから、俺は良一の両親と話だけでも出来ればと思っていた。
そんなことを考えていると、あっという間に良一の家へと着いた。
外観はどう考えてもDVが起きているとは考えられないような雰囲気を漂わせていた。
「御免下さい!!」
俺は大きな声で挨拶をした。
「はーい?」
扉が開いて良一の母親が出てきた。
「あ、涼介くん。こんにちは。」
「こんにちは!!」
俺は明るく挨拶をした。
この母親がDVを?
俺は一瞬疑った。
「まだ、良一は帰ってきてないの。あ、良かったら上がって。お菓子あるわよ~」
母親が言った。
「ありがとうございます!!」
俺はお言葉に甘えて上がった。
家の中もいたって普通だった。
物が壊れた痕もないし、傷も無い。
家の中の雰囲気も普通だった。
「さ、どんどん食べていいわよ~」
母親が皿いっぱいにお菓子を盛ってきた。
「いただきま~す。」
俺は食べた。
半分ぐらい食べた所で本題に入った。
「あの…」
「なに?」
母親が笑顔で言う。
この時、俺には母親に対する疑念を忘れていた。
「良一に手を挙げるようなことをしてませんよね?」
「なんで?」
母親の表情が一気に青ざめた。
母親もフリック並みに返しが早かった。
「…先週、見たんですよ。良一の背中に痣があったんです。しかも、たくさん…。」
どんどん、母親の表情が青ざめていく。
沈黙が続く。
「ただいま。」
良一の父親が帰ってきた。
そして、俺らのいるリビングへ。
「お邪魔しています。」
俺は父親に言った。
「あなた…」
母親は青ざめた顔で父親にここまでの経緯を話した。
すると、父親の顔まで青ざめてきた。
「お前の狙いはなんだ!!」
父親が言った。
声が震えている。
「良一に暴力をするのを止めてください。」
「赤の他人には関係ないだろ!!」
「えぇ、良一とは血は繋がってません。恋人でもありません。でも、俺達は友達なんです…あの日以来、初めて心を開けた友人なんです!!」
俺はいつの間にか涙を流していた。
「嘘をつくな!!どうせ、お前の目的は金なんだろ?俺が県議会議員であることを知っての脅しだろ?あ?どうなんだ?」
さっきまで青ざめていた父親の顔はいつの間にか真っ赤になっていた。
「金?そんなのいらねーよ。興味ねーよ。俺は、大事な良一を守りたいんだよ!!」
俺は叫んだ。
刹那、母親が包丁を持っていることに気付く。
「涼介くん、あなたが悪いのよ。触れてはいけない秘密に手を突っ込んだから…。おとなしく死んでちょうだい…。」
母親が包丁を構えて言った。
泣きながら。
俺はとっさに動いた。
母親の足を蹴り、転ばした。
そのせいで母親は包丁を手から放してしまう。
俺は床に転がった包丁を取る。
包丁の柄を握った瞬間、良一のことが頭を過る。
良一の背中に出来た痣…
少しずつ笑顔が減った良一…
時々見せる作り笑い…
「俺はあんな良一を見るのは嫌なんだよ!!」
決して、良一のことを恋人として見ていたわけではない。
ただ、友達だったのだ。
小学生の時に友達…田中良太郎に大好きだった猫を解剖されたときに友達は作らないと決めた。
でも、唯一信じることが出来た友達…
それが良一だった。
叫び声とともに、顔に生暖かい赤い液体がかかった。
部屋の中が一気に生臭くなる。
床に敷いてあったカーペットが一気に赤く染まる。
包丁は母親の胸の谷間に綺麗に刺さっていた。
「京子!!」
父親の叫び声が聞こえた。
父親は母親を抱きかかえた。
「京子!!目を覚ませ!!お願いだ!!逝かないでくれ…。」
しかし、母親が喋ることは無かった。
「てめぇ…俺の大事な京子に何してくてんだよ!!」
父親が殴りかかってきた。
俺はそれを避ける。
父親はテレビにぶつかる。
テレビが台から落ち、大破。
周囲にガラス片が飛び散った。
「許さん!!」
父親がガラス片を俺に向かって振り回してきた。
それが俺の頬に掠り出血する。
「何が大事だ!!お前が京子を大事にしたように俺は良一が大事なんだよ!!」
刹那、俺は部屋に飾ってあった良一の優勝杯で父親の後頭部を殴った。
即死だった。
かなり大きな声で争ったため、近所の人によって通報されていた。
俺は、呆気無く逮捕となった。
少年院に入り、日々更生に努力した。
そして、あの日から1年が過ぎた頃。
面会に良一が来た。
「久しぶり。」
俺はついつい笑顔になる。
「笑ってんじゃねーよ!!」
良一が怒鳴る。
「お前は何をしたのかわかってんのか…」
良一は泣いていた。
「…ごめん、でも、」
「でもじゃねーよ。俺の父さんと母さんを殺したのは事実だろ?何してんだよ…」
良一は俯いてしまった。
これ以上、良一は喋らなかった。
この時は良一が精神崩壊を起こして話すことすらできなくなるとは思ってもいなかった。
そして、これが俺のFirst Murderの全部だ。
少年院で更生をし始めてから4年が経ち、見事釈放となった。
その時は少しは社会復帰に希望を持っていた。
しかし、現実は厳しかった。
まず、少年院から出たというだけで危険者扱い。
ましてや、俺の場合はニュースにも取り上げられてしまった。
お陰で、色々な人から『殺人鬼』と呼ばれる日々が続いた。
そんなある日。
街でも人気の少ない場所を歩いていると1軒のボロボロな家を発見した。
俺は何故かわからなかったがその家を買った。
買ってから、中を探索していると地下室を見つけた。
そこには、様々な武器が置かれていた。
今まで見つからなかったのが不思議なくらいの量だった。
しかも、その地下室は少年院の独房に似ていた。
だから、妙に落ち着く。
そして、色々と思い出す。
「一度、人を殺した者はまた殺す。」
少年院で知り合った少年が言っていた。
翌日、その少年は処刑された。
暫くして、俺の耳に信じられない言葉が入ってきた。
良一が有名大学病院に入院していることを知った。
俺は会えないことを覚悟して、その病院に向かった。
しかし、彼は喋ることは無かった。
医師によると、治る見込みは無いとのこと。
いっそ、楽にした方がいいと言われた。
「それでも医者かよ!!」
俺は叫んだ。
「しかし、彼には家族がいない。誰が治療費を払うんだ。」
その言葉に俺は黙り込んだ。
その家族を殺したのは俺…。
そして、良一を壊したのも俺…。
「なら、俺が全力で働いて払う。だから、良一を救ってくれよ!!」
明らかに無謀なお願いだったが、俺の真剣さを医院長は買ってくれた。
しかし、働くにしても『殺人鬼』というレッテルが邪魔だった。
しかもそのレッテルは一生消すことが出来ない。
俺は、地下室で武器を見ながら考えた。
1日中、武器を見つめていたら答えが浮かんだ。
「殺人…するしかないな。」
こうして、この日本に『殺人鬼』が再び降臨することになったのだ。




