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6.兄と妹だそうです

またまた、期間があいてしまい申し訳ないです。

「律、入り口の前でお客さんをいじめちゃダメだよ?」


「りっちゃんはそんなことしないよっ」



二つの声に、そういえばここは入り口だったことを思い出す。どれくらいの時間そうしていたかわからなかったけれど、ここにいたら邪魔だ。



「いじめてねえよ」


「その子、顔真っ青じゃん。律がいじめてなかったらどうしてかなあ」


「大丈夫?具合悪いの?」



律が、黒髪の少年と言い合っている一方で、心配そうにこちらを見ている黒髪の少女。どことなく似ている二人に、兄弟だろうかと思う。



「えっと、私奏かなでって言うの。あなたのお名前は?」



何も言わない僕に嫌な顔せず、心配そうにしている彼女に申し訳なくなる。



「……真尋です」


「真尋君ね。ふふっ、敬語じゃなくていいよ。大丈夫?気持ち悪かったりする?」


「いや、なんでもない。大丈夫」



この世界では苗字は名乗らないのかもしれないと思い、下の名前だけを名乗る。それに御影と名乗るたびに、驚かれるから。もっとうまいこと言えたら良かったんだけど、僕には首を横に振り大丈夫としか言えなかった。

そんな僕の言葉を信じてくれたのか、彼女はホッとした様子で一息ついた。



「ボクはせんだよ。真尋君宜しくね~」



いつの間にか隣にいた旋が、自己紹介をする。

やけに馴れ馴れしくニコニコと笑いながら肩を組んできそうな雰囲気で、どうしようかと内心焦る。人見知りする方ではないと思うけれど、さすがに初対面ではごめんだ。

……しないよな?なんで、両手をわきわきとしながらこっちを見ているのかなっ!旋!

僕の表情がひきつったものに変わったのを見て、奏は旋の頭を軽く殴った。殴られた旋は不満そうに口を尖らしている。



「酷いなあ~!まだ、なにもしてないよ?」


「まだってことは、何かするつもりだったんでしょ!真尋君が怯えてかわいそうでしょ!」



二人の言い合いを見ながら、女の子に庇ってもらう自分に情けなくなってくる。いくら、わからないことばかりで気持ちが沈んでいたからってこんなのはダメだ。だからといって、初対面の自分が二人に言えることなんて思い浮かばないわけで、どうしたらいいかわからずオロオロすることしかできなかった。



「真尋悪いな。こいつら兄弟なんだけど、いつもこんな感じなんだ」


そんな僕の様子に気づいた律が、苦笑を浮かべて言う。


「あ、ボクがお兄ちゃんだからね~」



奏にどつかれながら、旋が手をあげた。そんな旋の様子に不満なのか奏は頬を膨らませて、旋を睨んでいる。兄弟仲がいいようで、微笑ましい。その様子にズキンと胸の奥が痛む。今はまだ、考えちゃ駄目だ。今はまだっ……。



「真尋君?」


「っ…」



心配した様子で奏が顔を覗きこんでいた。近いっ。思わずぱっと距離をとると、彼女は目を丸くさせていたが、すぐにクスクスと笑いだした。



「大丈夫そうだね。良かった」


「真尋君赤くなってるね。奏なんかで赤くなっちゃだめだよ~」


「なっ!失礼ね!!旋のばかっ!!」



旋と奏は仲がいいなと思いながら、戯れる二人を横目に律を見る。律は楽しそうに笑っていた。この三人は幼なじみか何かかな。僕にはそんな関係、なかったからちょっと羨ましい。



「そういえば、真尋君はどこから来たの?ここらでは見ない格好だし、東雲あたりかな?」


「えっ…いや、その……」


「奏、真尋は記憶がとんでるんだ……夜人のせいで」


「えっ!?……ごめんね」



何て答えればいいかわからないでいれば、律がフォローしてくれた。奏には悪いけど、それ以上何も言わずにいる。



「ふーん……真尋君は、夜人のせいで記憶ないんだ~?どんなこと覚えてるの?」


「おい、旋!」


「大丈夫だよ、律。えっと、自分の名前だけなんだけど……さっきから話に出てる夜人って何?」



信じられないという様子で旋は聞いてくる。そんな旋の様子に律は止めようとしたけど、僕にとってもこれはいい機会だ。この世界のことを、夜人のことを知るいい機会。

旋は、僕の言葉に目を丸くしていたが僕の様子に本当に知らないんだと小さく呟いた。

律と奏は、旋の態度にご立腹のようでわき腹をどついたりしている。



「いてて…二人とも酷いなあ。真尋君は忘れちゃったこと知りたいみたいだし、このままここで立ち話もなんだからさ、ボクの家でゆっくりご飯食べながら話そうよ」


「たくっ……真尋が知りたいっていうなら止めないけどよ。あんまし無理するなよ?無理に思い出そうとしなくていいんだからな?」


「うーん、晩御飯何にしようかなあ。久々にりっちゃん以外の人が家に来るのね」



相変わらず律は僕のことを気遣ってくれる。知り合ったばかりだというのにここまで気にかけてくれて、会ったばかりの律とは別人のようだ。夜人の被害者?だと勘違いしてくれたおかげでこんなに優しいのだけれど、夜人にどんなめにあわされたのだろう。

家族を失ったと言っていたけれど、いったい何があったのだろう。

わき腹をさすりながら歩く旋の横を、律が歩き旋に自業自得だと言っているのが聞こえる。

そんな二人の様子を楽しそうに見ている奏。僕はその様子を静かに見ながら、胸のあたりをぎゅっと握り締める。


なあ、蘭。僕はどうしてここにいるんだろう。

君はどこにいるんだ。

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