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4.彼が消えて眼鏡と知り合いました

「あんたは、なんなんだよっ……」


「私は(れん)朱伽(しゅか)の煉です」


「朱伽の煉?」


「煉が名で、朱伽は朱伽です」



煉が名前で苗字が朱伽?朱伽は朱伽って意味がわからない。

煉は名乗り近づいてきた。さっきの光景が頭から離れない僕は、なんとか逃げたいのに震えが止まらない。

小さな女の子を殺しておいて、何でそんな平然としていられるんだよっ。



「君は、何をそんなに怯えているのですか?……ああ、夜人のことを知らないんでしたね」



僕の様子に理解ができないといった感じに、首を傾げていた煉は一人納得し頷く。



「夜人は死人(しびと)です」


「え……」


「君は夜人に触れたからわかると思いますが、身体が冷たかったはずですし鼓動もなかったと思うのですがね」



夜人とは死人。あの小さな女の子はすでに死んでいるもの。

鼓動は感じる余裕なんてなかったけれど、確かに身体は冷たかった。

生きていれば感じることのできる温もりは、あの子にはなかった。


ああ、だからか……あの子は自分が何者かを知っていた。

知っていたからこそ、僕が夜人を知らなかったことに喜んでいた。


それでも、そんな簡単に死んでいるなんて受け入れることはできない。

受け入れたくはない。



「君には色々と聞きたいことがあるのですが、詳しい話はこの紅蓮(ぐれん)の森をぬけてからにしましょう」


「紅蓮の森?」


「君は……何も知らないんですか?この森が夜人が彷徨う森で、とても危険だということも」


「僕はっ……この世界に無理やり呼ばれてっ……」


「……とりあえずこの森を出ますから付いてきてください」



煉は僕の様子見て、大きくため息をついた。そして、僕に背を見せ歩き出した。

この森は死人である夜人が彷徨う森で危険。

あったばかりの煉のことを信じられないし、さっきの女の子が死んでいる人間だってのも理解できない。

それでも、僕には何もない。何もわからないし、何も知らない。

僕をこの世界に召還した蘭は、どこかへ消えてしまった。

今は煉のあとを付いていくことしかできなかった。



「そういえば、私は名乗ったのですから君も私に名前を教えていただけませんか?」



そういえば、僕は名乗ってなかった。

煉の名前を聞いたのに、僕が名乗らないのは不公平だよな。


「ええっと、名が真尋…苗字が御影(みかげ)です」


「御影?……本当に?」


「え、はい……僕、何か変なこと言いました?」



煉は僕の名前を聞き、歩んでいた足を止めこちらを見て驚いた表情を浮かべた。

僕、変なこと言ったかな。普通に名前を名乗ったのに。

御影っていう苗字がこの世界では、なんか意味があるのだろうか。



「まさか、御影と名乗るとは思いませんでした……早く、燈火(とうか)に帰って尋問しなくては…」



顎に手を添え、考え込むように独り言を言う煉が怖い。とても怖い。

聞き間違えじゃなければ、尋問って言ったよこの人。



「えっと、僕どうされるんですか……」


「ふふっ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ?痛いことはしません」



笑ったよ。とてもまぶしい笑顔を浮かべてるよこの人。

痛いことはしませんって言っている時点で信用できない。

僕は本当にこの人についていっても大丈夫なのだろうか。

でも、このまま森に一人いるのも考えられない。

覚悟を決めよう。


とても楽しそうにしながら歩く煉の後ろを、不安いっぱいでついていき十五分。

森を抜けたかと思うと、一面白い花が咲き乱れる花畑にでた。

赤いつきの光を受け、白い花はまるで輝いているようで。

いや、よく見れば仄かに発光している。

さすが異世界だ、不思議な花が咲いている。



「この先が燈火です、さあ早く行きましょう」


「あ、はい」



花畑の先に、森の中では見えなかった灯りが見える。

これからどうなるんだろう…広がる不安を胸に煉の後を付いていった。





******








「あーあ……あいつの朱伽の残り香がするわ、胸糞悪いったらありゃしねえ」



二人がいなくなった紅蓮の森。

小さな夜人が光となったあの場所に、三つの影。



「そもそも、貴様が時雨(しぐれ)様の邪魔をするからこんなことになったんですよ!わかっているんですか!」



「へいへい、悪かったよ……ってお前偉そうだな!俺様のほうが偉いのわかってんのか!?」



「私は、時雨様に忠誠を誓っているのであって貴様には敵意しか持っていない」



「お前本当に腹が立つな!!時雨が止めなかったらぜってーお前を始末してやるのによ!!」



言い争う二つの影。

その近くで、しゃがみこみ地面を撫でる一つの影。

ちょうど撫でているその場所は、小さな夜人が消えたときにいた場所。



「……叶えてやりたかった」



ぽつりと呟くようにこぼした言葉は、悲しそうで。

その言葉を聞いた二つの影は、大人しくなり小さくなっている影に近づく。



「煉の野郎は俺様が始末するから安心しろよ、時雨」



不適に笑う一つの影を、諦めた様子でみるもう一つの影。

小さくなっていた影は、二つの影に何も返さず立ち上がり森の奥へ消えていく。



「……貴様のせいで時雨様が傷ついているのですよ、どうしてくれるんですか」


「悪かったって言ってるじゃねえかよ!!」



続くように二つの影も、言い争いながら森の奥へ消えていった。

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