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TとUの理不尽クイズ

成立しないゲーム<問題編>

作者: フィーカス

前回の話では、Kさんにとても失礼な表現で書いてしまいました。今回はKさんが問題を出す側なのです。

いつもどおり、勝手に出してしまってすみません(汁

「Kよ、こういう話を知っているか?」

 日曜日の午後、久々にKに会ったUは、話をするために喫茶店に誘った。昼時がすぎた喫茶店は客が少なく、話し声はこのテーブルからしかしない。

「ふむ、恐らく知っている」

 Kはまるで話を聞く気が無いようにホットコーヒーをすすった。香ばしい香りが、鼻孔から静かに入り込んでくる。

「そうか、知っているのか。ならば話すまでもないな」

「おいおい、じゃあ何のためにここに来たのだ」

「お前が話を聞く気がないからじゃないか」

 ふてくされたように、Uもコーヒーに口をつける。店員がお冷を注いだついでに、チーズケーキを注文した。

「まったく、俺の上段な冗談も通じないとは、頭が固い田山花袋たやまかたい男よのぉ」

「蒲団か。名前くらいは聞いたことがある。しかし田山花袋は頭が固くないと思うぞ」

「いやいや、頭が固いのはお前のほうだ」

 言い合っていると、Uのテーブルにチーズケーキが運ばれてきた。それを見てKも甘いものが欲しくなったのか、チョコレートケーキを注文した。

「まあいいか。とりあえず話そう」

「ふむ、聞いてやる」

 Uはフォークでチーズケーキを一口分きると、それをゆっくりと口に運ぶ。もぐもぐと口を動かし、コーヒーで流し込んだ後、ゆっくりと話し始めた。

「雪山での話なのだが」

「ふむ」

「猛吹雪の中、遭難した四人が奇跡的に山小屋を発見し、そこに避難したんだ。そこで暖を取って吹雪が止むのを待っていたのだが、朝まで一向に止む気配も無い。次第に焚き火にくべるものもなくなり、このまま眠ってしまっては全員凍死してしまう」

「はっはっは、そこは闘志で凍死を防ぐのだ」

 思いついたようにKが口を挟む。が、Uは話をぶった切られて不満そうだ。

「ならば一回遭難してみるか? その場にいれば仮初の闘志など意味が無いと感じるだろう」

「まったく、やっぱりお前は田山……」

「蒲団はいいから。続けるぞ。もちろん、布団なんて気の利いたものは無いから、全員眠るわけには行かない。そこで、四人は話し合って、朝まで眠らないための方法を考えたのだ」

「ほう、どんな方法だ?」

「まずじゃんけんでスタートする人を決める。その後、長方形の部屋の四隅にそれぞれ一人ずつ立つ。スタートする人が時計回りに壁伝いに歩いていき、部屋の隅にいる人にタッチする。タッチしたらその人はタッチした人がいた場所にとどまる。タッチされた人は同様に壁伝いに歩いていき、次の人がいるところまで来たらその人にタッチする。こうして朝まで続けていれば、タッチされるまで休めるし、タッチした人が寝ていれば起こせば眠らずに済む、というわけだ。こうして四人は朝までこのゲームを繰り返し、無事に下山したという話だ」

「なるほど、愛と友情と根性が生み出した生還トンネルということだな」

「まったく意味が分からんことを言うな、お前は」

 話し終えたところで、Uはチーズケーキを一口食べる。同時に、Kが頼んでいたチョコレートケーキが来た。

「さて、ここからなのだが」

 Kがようやく来た甘味に舌鼓を打とうとしたとき、Uがシリアスな口調になったので、Kは思わずケーキを食べる手を止めた。

「このゲーム、実は成立しないのだ」

「というと?」

 たいして不思議そうな顔をせず、KはUに聞き返した。

「スタートの人を1、次にタッチする人を2、その次を3、その次を4とする。図に描いたら分かりやすいか」

 そういうと、Uはかばんから手帳とボールペンを取り出した。そして、そこに長方形と、四隅に1から4までの数字を時計回りに書いた。

「1の人が2にタッチをすると、1は2がいた場所にいる」

 そういうと、Uは図に1→2というような矢印を書き示した。

「同様に、2は3に、3は4の場所に移動する。一周するとこんな感じだ」

 Uはもう一つ長方形を書き、最初とは一つずつずれた場所に1、2と書く。そして、3と4を同じ場所に書いた。

「ところが、4がタッチされて歩き始めると、次の隅には誰もいないから、ここで止まってしまうのだ。このゲームを成立させるためには、五人いないといけないのだ」

「なるほど、この話の怖いところは、誤認された五人目がいるということだな」

「何で仲間はずれっぽいのがいるんだよ。ちゃんと四人でって言っただろ」

 はっはっは、と笑いながらKは謎の余裕の表情でチョコレートケーキを堪能する。

「大体、そのような話なら、聡明な読者は何回も聞いて飽き飽きしていると思うぞ。そういう話をするなら、もっとオリジナリティーあふれる話を考えてくることだ」

「はぁ、お前に話すんじゃなかったか……」

 Uはため息を付きながら、フォークでチーズケーキを切り分ける。


「そういえばTはどうしたのだ? あいつ俺の答えを散々バカにしやがって。おかげでこっちは小説の方針を放心状態で変えることになったんだぞ。どう責任を取ってクレルモン公会議だ」

「世界史はよくわからんが、たしかに人の答えを馬鹿にするのはよくナイジェリアだな。今度一発叩いておこう」

「ふむ、Uよ、ようやく駄洒落の心というものが身についたんジャマイカ? ありきたりだが、まあ初めてにしては上等な常套手段だ」

「くっ、おもわず釣られてしまった」

「はっはっは、Uよ、徐々に親父街道を進んでいくがいいさ」

 悔しそうなUを目の当たりにして、Kは笑いながらコーヒーを口にする。

 と、不意にKの頭の中に何か電撃のようなものが走った。

「フフフ、Uよ、さっきおもしろい話を思いついた。この謎が解けるかな?」

「なんだ、また推理とかクイズとかか? まあ、クイズは得意だがな」

「ほう、やる気はあるヨーダな。じゃあ行こうか」

 そういうとKはチョコレートケーキを口に入れ、すぐにコーヒーで流し込んだ。

「寒い冬、とある部屋で人が閉じ込められてしまった。幸い照明はついたものの、窓は無く、ドアは鍵ががっちりしまっていて開けることができない。エアコンなどの空調設備はなく、暖を取れるようなものも無い。どんどん室温は下がっていき、このまま眠ってしまっては全員凍死してしまう。起きている四人はなんとか助けが来るまで起きていられないか、知恵を絞ったわけだ」

「なんか、さっきの話に似ているな」

「そこで、四人は一つの方法を思いついた。それは、起きている人間でまずじゃんけんをし、スタートする人を決める。その後、部屋の隅にそれぞれ一人ずつ立つ。スタートする人が時計回りに壁伝いに歩いていき、部屋の隅にいる人にタッチする。タッチしたらその人はタッチした人がいた場所にとどまる。タッチされた人は同様に壁伝いに歩いていき、次の人がいるところまで来たらその人にタッチを……」

「おい、それさっき俺が話したことと全く同じじゃないか」

 あまりに同じだったため、思わずUは声を荒げた。

「おお、よく気が付いたな」

「そりゃ、さっき俺が話したことだからな。まさかほとんど一字一句同じ話をしてくるとは……」

「はっはっは、全く同じかは、最後まで聞いてから言うことだな」

 なんだかイライラしているUを尻目に、飲み終えたコーヒーカップを隅に寄せ、Kは新しくコーヒーを注文した。

「で、このゲームを続けていたら、数時間後に助けが来て、部屋にいた人は全員無事外に出ることができた、という話だ」

「だからそのゲームは成立しないって話が怖いところであって……」

「ところが、先ほど説明した方法は、誰の目から見ても明らかに成立していたんだ?」

「……は?」

 目が点になるU。その顔を見て、Kは思わずにやりとした。

「そう、さっきUが話のように、『成立しないはずなのに成立していたのが怖い』のではなく、『誰が見ても成立していると納得できる』のだよ」

 一体何を言っているのか、Uはさっぱり分からない様子である。

「そんなの、あれだろ? 四人目が一人目がいたところをスルーして、次の隅まで行ったとか、そんなのじゃないのか?」

「おいおい、それで成立するんだったら、お前の話だって成立するって話になるんじゃないのか?」

「いやだからさ、きっと暗い部屋だったから、誰かがズルをして……」

「照明はついている、と言っただろ。誰かがズルをすれば、他の人が気づくだろ」

 うぐぅ、とUは歯軋はぎしりに近いような音をだす。

「五人いないと成立しないはずだ。だったら部屋の外から誰か入ってきたんだ」

「いやいや、さすがにそれは無い。第一、誰かが外から入れるなら、そのときに部屋にいた全員外に出ればいいだけの話じゃないか」

 頭の中でKの話を整理するが、一向に分からないU。

「ならば、これなら……」

 と、半ばやけくそになりながら、半分自分でも納得しない解答をUはKに話した。恐らくダメだろうと思っていたが、

「お、鋭いな。正解だ」

 Kはあっさりと正解を認めた。

「おいおい、そんなのでいいのかよ」

「ああ、俺はそこまで言ってないからな。だが、成立可能性はもう一つあるのだよ」

「な、何!? 二つもあるのかよ!?」

「ああ。俺が考えたのは二つだ。まだあるかもしれないが、まあそれはいいか」

 正解したのにまだ答えがあるといわれ、必死に考えるU。だが、答えは見つからない。

「ダメだ、降参だ」

「はっはっは、まあ二つ目はお前が降参する公算が大きかったからな」

 やってきたお替りのコーヒーを、笑いながら口にするK。Uはそれを見て悔しがる一方である。



「さて、読者の皆さんは分かっただろうか。Uが話した雪山の恐怖の密室、成立しないゲーム。それをヒントにした、私のオリジナル問題。

 一見すると、Uが話したことと私が話したことは同じように見える。しかし、よくよく読んでみると、Uが話したことと私が話したことでは異なっている点がいくつかあるのだ。それさえ分かれば、何故このゲームが『誰が見ても明らかに成立する』のかが見えてくるはず。潜入する先入観を捨て去って、考えてもらいたい。

 正解を話すのは別の機会にして、何故このゲームが成立するのかが分かった皆さんは、是非とも私にその理由を聞かせてもらいたい。私はこのゲームが成立する可能性を二つ考えたが、もしかしたら他にも可能性があるかもしれない。

 感想かメッセージボックスに解答を書いてもらえれば、個別に対応したい。では、凍りきったこの問題の、皆さんの解凍された解答をお待ちしている」

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、ひとつ目の答えは スタートする人が時計回りに 壁伝いに歩いていき、部屋の隅にいる人にタッチ する。タッチしたらその人はタッチした人がいた 場所にとどまる。 を読んで勘違いしたもので…
[一言] 角のある部屋、とは書かれてませんし 、角がないから却下なら 「すみ」を「隅」では無く「角」と書くべきで は……と愚痴をこぼしてみる←。 円形の部屋でも隅は隅ですし……
[一言] 次の角まで、じゃなくて次の人がいるところまで壁づたいに歩くわけだからそりゃ成立するわなw( ̄▽ ̄;) 二つ目の理由は部屋が円形とかかな。
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