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死にたがりの赤ずきんと気の長い狼の迂遠な関係 - ヨン

作者: 萩原間九郎

『ヨン。』


 まさか、突然裸にさせられ、身体を見られるとは思ってもみなかった。

 質問責めは我慢できたけど、流石に飛びすぎだ。

 そもそも、僕はこんなカラダだから、人に肌をみられることに慣れていない。傷跡だらけの肌なんて、晒す方にとっても見る方にとっても、決して気持ちのいいものではないのだ。温泉や銭湯なんて絶対に行かないし、プールや海に行こうなんて、まったく考えたこともない。水泳の授業だって、自慢じゃないけど一度として参加したことはないんだ。

 そんな僕が、パンツまで脱がされて、身体の隅々まで至近で観察された。あんなに切実な『自』殺意を感じたのは久々だ。(衝動的に身体へ刃物を突き立てることはよくあるけど、それは無意識だ)僕は今更ながらに、めらめらと反感が燃え上がるのを感じていた。

 ……しかし、それは実に虚しい、内弁慶的な感情でしかない。彼女を前にすれば、塩をかけられた菜っ葉のように、しおしおと萎んでしまうに違いないのだ。

 僕は彼女が怖い。

 怖い一方で、惹かれてもいる。

 こんな感覚は初めてだ。だからこれがどんな感情なのか、それはさっぱりわからない。ひとつわかっているのは、彼女が見ていようといまいと、その言うことに逆らうことは決してできないだろう、ということ。

 佐宮間が空を飛べと言えば僕は飛ぶだろうし、男に性別を変えろと言われても諾々として従うに違いない。まあ、それら二つは簡単だけど。飛び降り自殺と手術ですむ話だから。実際に今言われていることに比べたら、それこそ朝飯前どころか起床前。片手間どころか小指一本で片付けられる。

 彼女の命令はこうだ。

『太るまで死ぬな』

 今までこんな滑稽な理由で死を禁じられた人間が、僕以外にいるものだろうか?

 まったく、こういうことを言い出すから、彼女は素敵なんだ。まるでおとぎ話の魔女みたい。

 しかし面白がってもいられない。この命令の困難さといったら、睡眠薬も棍棒もない状態でコングを飛行機に載せる方がずっとマシなくらいだ。

 無意識で死のうとしている僕は、別に死にたいわけじゃない。ただ、気付いたら死のうとしてるから厄介なんだ。諦めのついた今だけど、彼女が死ぬなというのであれば、僕はずっと気を張って死なないよう心がけなくてはいけない。それはすごく疲れる。一日でも早く彼女の基準を満たし、解放されたい。

 ……あれ、なんだかまるで、死にたがってるみたいだ。

 そう言えば、死ぬのは仕方がないとは思っていたけれど、誰かのために死ぬなんて、彼女に出会うまでは考えたこともなかった。案外、その日が楽しみなのかもしれない。彼女に望まれて、笑顔を見ながら死ぬのは、一人で衝動的に死んでしまうより、きっと気持ちがいいだろう。

 僕は決めた。佐宮間との生活を始めることを。

 終わり方の決まりきった、僕たちの未来。

 日々終わりに向かって駆けていく焦燥感は、きっと心地が良いだろう。初めて自分から、生きてみたいと思った。




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