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下から見下ろす景色というのは何故こうも美しいものなのだろう。
己の足がコンクリートに張り付いている時にはけして見えない極上の景色。
赤い夕暮れに浮かぶ朱に染まった曇達。
高いビルの合間から漏れる日光がまた綺麗だと思った。
こんな素晴らしい日に死ねるなんて。
俺はなんて幸せな人間なんだろう。
小学生の時に引っ越してきて住み慣れたマンションの最上階にある立ち入り禁止の扉。開いてみるとやはり思ったとおり、ここは屋上だった。
「…あ」
なんて綺麗な景色なんだろうと思った。
他の人から見たらなんてこと無い景色なんだろう。
写真で示されても何も感じないのだろう。
俺だけが美しさを感じることが出来る薄汚い屋上。
空になった安い発泡酒の缶や泥が付いたコンビニ袋が転がる空間。屋上へ入るためのドアは錆び付いていて、ドアノブを回そうと手を掛けると掌に赤錆が付いてしまう。
美とはかけ離れた空間なのかもしれない。それでも此処にいると救われた気になるのは何でだ?
胸の奥の方が誰かに鷲掴みにされているようだ。切なさがこみ上げてきて気を抜くと泣いてしまいそうだった。
遠い君を想った。