怪盗パルクールは夜を駆ける
1>>ネオン街◆逃走開始>>
夜二十三時。
都市はもう昼とは全く別の顔をしていた。
ビル群は広告で光り、雨上がりの道路は時折きらきらと飛沫を上げながら、黒い鏡みたいに街灯を映す。
その上を、うち、白流ハルルは走っている。
ーーー怪盗パルクールとして。
腰袋には盗品がある。
中身はーーー
「止まりなさーい!!!」
「回り込めっ!!!」
「にゃははっ」
後ろはサイレンと怒号。
赤と青の光が、ビルの壁に反射して追いかけてくる。
警官隊はもう複数ルートで包囲を始めてる。
とんたんとガードレールを蹴り、看板に手をかけよじ登り、脇道をいくつもすり抜け、ーーー繁華街の屋上連結エリアへ到達した。
眼下はビルの岩盤と光の洪水。
旅のお供は先程から追い掛けてきたドローン二機に、地上の警官たち複数。
「そろそろ撒かなくっちゃ」
依頼人の女の人、衣麗さんはいつ受け取れるとは言っていなかった。寧ろ、時が来るまでうちが預かっていた方が安全かもしれないと。
時が来るまで?と聞き返したが、彼女は笑って誤魔化した。
ーまっ、仕方ない。一旦納得しとこ。
っていうか、それで深追いして下手に他の人に頼むとか言われたら困る。
だって面白い仕事を一つ失ってしまう。
ーさて、と。
「ふーむ、どうすっかな」
隣のビルへジャンプしていって逃げる?それも楽しそう。でもドローンに見られやすいかもな。
ビルの中に入る?いいや、ここに来たことは多分ばれてる。警官と鉢合わせするかも。
人混みに紛れる?
そんなの、つまんない。
ふと、頭上の巨大LED看板が目に入る。
舌舐めずりしながら算段する。
よし、これだ。
「おっし、決めた」
ちょっとだけ屈伸。腕が鳴るね。
目の前にあるのは、都市の顔みたいに明滅している広告パネル。
ピンク、シアン、白、黄色が絶えず切り替わって、夜を彩ってる。
その裏には暗闇が隠されている。
足場が不安定で熱そうなのだけが不安だな。
「ふっ」
一気に飛び移る。
足が看板のフレームに乗った瞬間、
「あっち!あっち!」
ジィィ…ッ
低い電磁音と同時、足が焼ける。
「うぐぐぬぅ」
装備不足だったか。ちょっとだけ後悔。
め〜っちゃくっちゃ熱い。
金属フレームが発光のせいで熱を持ってる。
「長居する場所じゃないな」
さっさと駆け抜けよう。
ここは正面からは見えないだろうし、建物の間を真っ直ぐ移動出来る。
目立つかどうか気にせず、駆け抜けられる。
看板フレームの細い梁を渡り、発光パネルの上端をつるると滑り、そうして、瞬く間に端っこに辿り着いた。
「ふんふん、足りるかな〜ぁ?」
頭上でぷらんぷらん揺れてるのは、配線ケーブル。
看板の裏側を走る黒い束。
電力と信号をまとめて流す都市の神経。
それの余りが、向かいのビルへ向かってわずかに弧を描いてる。
多分少し前に看板を取り替えた時の配線の余りだろうな。
「……いっくよーん♪」
どきどきわくわくする。
狩りの時はいつも生きてるって感じがする。
走る。
看板フレームを蹴って、さらに上へ。
空中で手を伸ばし、指がケーブルを掴む。
「あはっ」
ガッと掴んで、姿勢を安定させる。
腕がみしみし言う、体重が全部かかる。
ケーブルがスプリングみたいにしなる。
ゆらゆらと、振り子のようにうちと配線は揺れてる。
後ろでみゅいっと音。
ドローンだ。
でももう遅い。
振り子の最下点、そこから一気に振り上がる。
風が顔に叩きつけられる、巨大な布団に突っ伏したような圧。
視界のネオンが、濁流のように後ろに流れ、光のトンネルになる。
そしてーー
向かいのビルの縁。
「ア〜アア〜♪」
だんっと音を立て、うち、到達。
即座、前転して衝撃を逃がす。
「っし」
ーみゅいん。
「……はは、ちょーっとミスったかな?」
ちょっとだけ、苦笑い。
屋上の外、空中数メートル先に、先回りしている影があった。
警官じゃない。
小さく、軽く、速い。
ーもう一体のドローンだ。
「面白くなってきたじゃん」




