スピンオフ 「その後の上山バスケット(伝江の日曜日)」
伝江です。
いっちゃんが成羽を去った後の、ある日曜日。
うちは、仕事場に一人残っとったんじゃ。
【本文】
ある日曜日の夕方、うちが仕事場でバスケットの形を整えていると、俊雄伯父さんの声がした。
「衣津子、これ、計算してくれ、衣津……。ああ、もうおらんのじゃった」
「ほうで。もう、いっちゃんはおらん」
うちが言うと、
「伝に、この計算……頼んでもダメか」
「ダメで。いっちゃんしかできん。そがぁにいっちゃんがええんなら、なんで、追い出したん?」
「それとこれとは別じゃ。衣津子は許されんことをしたからな」
「ほんまにいっちゃんだけが悪いん?」
「ほんまは伯母さんが一番悪い。ワシもわかっとる。じゃが、娘のこともあるし、社長としての世間体もある。セツ子を追い出すわけにはいかんかったからな」
「せいで、いっちゃんだけが追い出されたん?」
うちは腹が立った。
「まぁ、そう言うな。衣津子のためでもあるんじゃ。あれはそろばんもできるし、字もきれいじゃから、よそで仕事した方がええ。そう思うたんもほんまの気持ちじゃ」
「……まぁ、そうじゃわな。いっちゃんは頭がええけぇな。 伯父さん、心配せんでも、うちがこの『上山バスケット』を支えるで」
「そりゃ、ありがと。……なんとも頼り甲斐があることで」
「どうゆう意味?」
「伝、頼りにしとるで」
「そう、それでええんじゃがな」
「やれやれ」
伯父さんは呆れた顔をして仕事場を出て行った。
うちは、
(やっぱり、いっちゃんはよそに行って良かったんじゃな)
と思った。
一方で、自分がこのままでいいとは思えなかった。
窓から夕陽がさしてきた。
(いっちゃんも、今頃、この夕陽を見とるんじゃろか?)
そう考えながら、うちは、またバスケットを手に取った。
同じ夕陽を、いっちゃんもきっと見てくれとる。
たとえ道が分かれても、編み上げられた絆は解けゃあせん。
成羽の空の下で、うちもいっちゃんに負けんよう、「自分の一秒」を刻むで。




