1_22 六火仙ファミリー
「ほら、今だけは許してやっから早く尋ねてみろって、ケケッ」
在原が二階堂を急かす。
(南山を・・・あいつ・・・ここの関係者か何かなのか・・・いや、こいつらが自衛隊幹部から情報を得たい
だけなのかもしれん。南山は駐屯地の中でも顔役の立ち回りだ・・・存在をしっていても何ら可笑しくはない、どうする?)
二階堂は怪訝に思いながらも襟の通信ボタンに指をかけた。
「南山、モニターしているな・・・こいつらはお前をご所望らしい、何とか言ってやれ」
だが耳の奥からはなんら応答は聞こえない。
「南山、聞いているのか?!・・・おい、じゃあ省吾、応答しろ!イーノでもいい、誰か返事をしろ!」
「なんだ・・・どうしたんだ一体?!なんでここにきて何も応答しない!!」
暫くしても何ら答えが返ってこないため狼狽し始める二階堂を尻目に古今少佐は傍らにいた僧正に何か耳打ちする。
すると僧正はまるでアニメに出てくる忍者のようにその姿を瞬時にくらませた。
「おい誰か?!誰でもいい答えろ!早くっ・・・オオオオオォ!」
二階堂は無線に夢中で気づかなかったが数隊のウバメがじりじりの距離を詰めていた。
ウバメたちは今の状況に飽きてきているのか仲間同士ではしゃぎ回ったりじゃれ合ったりしている。
「キャッキャ、ウフフ」
「ウワァーーーイ!」
ウバメたちは幼稚園児の様にじゃれ合うも、その恐ろしく強靭な肉体は周りのパイプなど瞬時に折り曲げ、
とても声に似合うような形ではなかった。
(嘘つけ冗談じゃない!このままじゃ詰んじまう!!)
二階堂を再び恐怖が襲う。
その時、その眼前、3~4m先に一人の男が降り立った。
「ぐっ!貴様っ僧正という奴か!」
「次は外すつもりはない、さぁ南山を出せ」
僧正は腕をゆっくりとあげて袖についたランチャーを二階堂の顔面に突き付けた。
それは銃口は無い代わりにベージュ色をしたゴム状の直径十センチほどの膜が先端に張り付けられており
真ん中に僅か数ミリ程度の穴が開いていた。
先程の様な針はここから打ち出されるのであろう。
「待て待て待てっ、今ここで俺を殺しても何にもならんぞっ!大体俺はお前らにとって(玩具)なんだろう?!
直ぐに殺しちまったら他の仲間がキレるんじゃないのか?!」
それを聞いた僧正は自身の黒っぽい布で覆われた顔でも周りが理解できるほどのニヤケた仕草をした。
「それは我らが純兵達だけよ。”上官殿!折角の玩具を台無しにしないでいただきたい!”ってな。
我ら”六火仙ファミリー”には関係ない話よ」
「・・・六火仙ファミリー?」
二階堂が聞きなれない名詞を口にした時、耳から待ち望んだ声が飛び込んできた。
”・・・二階堂!何も言わずに黙ってタロットを引け!”
(南山!?急に応答したと思ったら急に何を言い出すんだ・・・)
二階堂は急な応答に思わず顔が変わりそうになるのを瞬時にグッと堪えた。
「・・・ん、どうした。応答があったんじゃないのか?!」
僧正が二階堂の僅かな変化も見逃さず詰問する。
(畜生、クソが、もう何が何だか・・・・もういい!!どうにでもなれ!)
二階堂が意を決して腰のベルトに付けていたタロットのホルダーから一枚のカードを引き抜いた。
「?!貴様っそれはなんだ!!どこでそれを!!!」
僧正だけではない、古今少佐を始め六火仙ファミリーそして他の兵たちから一斉にどよめきが沸き起こった。
(なんだっ!このタロットはお前らが持っている物ではないのか?!)
二階堂はどよめく一同を回し見ながらも先程引き抜いたタロットの絵柄を見た。
NO.14 Temperance (節制)正位置
「ンキィィィィィィィィ!!」
「ンンンンンンッ!!!」
ウバメたちが一斉に苦しむような呻き声を上げ始める。
「なんだっ一体どうしたんだ?!」
二階堂はウバメ達が一斉に直立不動になったり、しゃがみ込んだりするのをみて困惑した。
一方二階堂よりも驚きを隠しきれなかったのは六火仙ファミリーを始めとした古今少佐達である。
「・・・なぜだ、どういう事だ?!喜撰!!」
古今少佐はすぐ後ろに控えていた喜撰に詰問する。
「ふむ・・・おかしいですね、例のタロットは別棟研究区画にて保管されているはず・・・これは一体」
喜撰は特別慌てる様子も無く状況をただ傍観していた。
「知れた事、何者かがこいつに手渡したんだ。薄汚い南山みたいにな」
在原がそう吐き捨てると周りの兵たちは皆一様にどよめきだした。
(南山・・・?ここの関係者だったのか?!いやそんなことはどうでもいい、それよりもこの機会を逃す手はない。
この場から直ぐにでも離れなければ!!)
そう思った矢先に省吾から連絡が入った。
”二階堂さん、聞こえていますね!正面のウバメを抜けてそのまま突っ切って走ってください、急いで!”
「省吾か?!正面っ・・・こいつらの脇を潜れと言うのか、クソッ」
二階堂は悪態をつきながらも痛む身体に鞭打って一目散に駆け出した。
「おっ、駆け抜けろ青春か二階堂っ?!やるなぁ」
「黙れこのキチ〇イども!!!」
文屋が二階堂に笑いながら呼びつける中、二階堂は悪態をつきながらも脇目も振らず走る。
「ンググググッ!!!」
ウバメの脇を抜ける最中、苦しみながらも放たれた強烈な上段蹴りが二階堂の頭上をかすめる!!
「ひぃぃぃ!!!」
当たれば頭蓋骨骨折は避けられないほどの強烈な蹴りを間一髪で裂け正面の壁へと向かう。
「な、何もないぞっ、どうすんだ省吾!!!」
”大丈夫!マップはその先は通路もなってるはず、抜けられる”
眼前、壁まで1メートルと迫ったとき、その何の変哲もない壁は自動ドアの様に左右へと開かれ
大きな部屋へとつながった。
「ひ、ひ、ひ!」
二階堂は最早高鳴る鼓動が走ることによるものなのか驚きによるものなのか理解することもままならずそのまま走る。
(ここは・・・厨房かっ?!)
ただっぴろい厨房を駆け抜ける最中、凄まじい気配を感じ真横を見るとウバメが何匹か追って来ていた。
それは走るというよりまるでアイススケートでもしているかのようにすたすた滑る様に廊下をひた走り、
こちらを追い抜かんばかりである。
「オオオオオ!畜生ッ!ふ、ふざけやが、って!」
更に間反対を見るとそこには先程まで吹き抜けの二階から眺めていた
文屋が凄まじい速さで横並びに走っていた。
「そ、そんな・・・ばか・・な」
「ほら、二階堂さん遅いよ?!もっと足上げて、腕振って・・・さぁ!!」
二階堂は走りながら厨房の机の上の鍋やら調理器具やらをウバメや文屋にむかって弾き落とす。
「ううっ、この、このボケッ、畜生!!」
”二階堂構うな!!急げ!!走れ!!”
決死の中、無線から聞こえてきたのは南山の声。
「貴様南山・・・あ、後で・・・説明しろっ・・・・覚えてろよチキショーめ!!!」
”二階堂さん、いいから早く!!”
省吾がなだめつつも急かす。
「くそ、くそ、あああああくそくそくそくそ!!!」
二階堂はもう息も絶え絶えの中、目の前の厨房室の出口の扉まで駆け抜けた。
扉は自動ドアで直ぐに開いた。
急ぎ飛び込む。
ドアの先は夜空の星々が奇麗に輝く外だった。
”二階堂さん、ドア横のパネル!色が変わっている所壊して、早く!!”
省吾の応答に二階堂は答える前に既に条件反射で身体が動き、大きなサバイバルナイフを取り出すと
パネルに向かって勢いよく何度も突き立てた。
ガンガンッっと音を立ててパネルがへこみ、直ぐに閃光と煙が上がって自動ドアは小さな隙間だけを残して止まった。
「はーはーはーはーっ、うぐっ、ゴホッゴホッ!!」
その場にへたり込み肩で息をしながら過呼吸になる。
二階堂は壊したドアの方を見たが追っては扉を蹴破ってくる様子も無く、ひとまずの危機は脱したと判断して安堵した。
手に持ったままのタロットを何気なく眺める。
「い、いったい何がどうなってんだ・・・畜生が」
”二階堂、それをもとのホルスターに仕舞え。これからの正に 運命 だ”
南山の呼びかけに二階堂は憤怒した。
「だまれ!!お、お前騙しやがったなっ、お前もあいつらの一味だろうっ!」
”元だ。俺はそれを断ち切るために今回の作戦を立案したんだ。
二階堂、お前を決して欺いているんじゃない!”
「ど、どうだか・・・は、は、なんだこれ」
二階堂は息を整えつつ立ち上がると目の前に広がる光景に唖然とした。
そこには手すりも無い30センチにも満たない幅の橋が百メートル以上に渡り続いていた。
自身の居る踊り場から橋の下を覗き見ると底知れない闇が渦巻いている。
凍えるような気温、そして突風。
「冗談だろ、この先を行けっていうのか」




