1_85 喜撰(きせん)
もはや二階堂の表情に驚きはなかった。
彼らが化け物など周知の事実なのだから。
「ふざけやがって・・・やはり針銃を使わないとこいつらは仕留められんか」
距離を取りながら二階堂はグレネードランチャーの再装填を行う。
かたや喜撰は爆ぜた自身の右肩回りなどものともせず体勢を立て直すといきなり腰を落として高らかに宣言した。
「天地創造の陣を執行する!―――――――――臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
喜撰の爆発を免れた残りのミサイル数発が全身のミサイルサイロから一斉に発射された。
それらミサイル群は二階堂には向かわずそれぞれ弧を描きながら一度は闇雲に飛んだものの
再び舞い戻り滑走する喜撰の横一列に水平に並び陣形を取った。
喜撰を中心として”V”の字に陣形を取り側面に上がりながら二階堂に睨みを利かせる。
最後に喜撰は腰に装着しているマシンホルスターのロックを外し折り畳み式単発ライフル銃を装備する。
異彩を放つのは先端装着されている日本刀のような刃を持つ銃剣”バヨネット”。
「見えるか二階堂、これがこの俺の全て・・・三百年式銃剣、そして兄貴の全て・・・三百八十式歩兵銃、戦えなくなった
兄貴の遺志を継ぎ戦場で花開く大和魂」
(銃剣か?!ヤバいあいつ・・・元突撃兵か?)
二階堂はかつて自衛隊に身を置いているころ・・・夕方ごろになると道場から聞こえる荒々しい声を出しながら
修練に身を置く隊員たちを思い出していた。
「貴様がいる自衛隊という腑抜けた軍にも”銃剣道”という武道があるらしいな・・・我ら帝国軍の遺志を継いでいるというが、
まあそれだけは評価してやってもいい」
そういいながら喜撰は側面でそのジェットエンジンの出力を次第に上げてゆく。
「だが貴様らの理念が”守る”とはどういう了見だ!?一度や二度の敗北が何だというのだ!!
そんなものは負けのうちにも入らん!!攻め込んでこそ”漢”ぞ!命ある限り、敵に背中など見せるな愚か者が!
二階堂、この俺が貴様に”今一度”教えてやる!とつげきぃぃぃいぃぃぃぃい!」
「くそおおおお来やがった!!」
喜撰の横に並んでいたミサイルが一斉に凄まじいジェット噴射する。
それらはあらゆる不規則性を描きながら二階堂に次々と襲い掛かる。
「どうだ?!貴様に撃ち落とせるかっ!”ぐれねいど”などと言う弾速の遅い馬鹿のような武器を使うからこうなるんだ!」
二階堂は際際で避けるも撃ち落とすまでにはいかなかった。
さらに猛攻は続く。
「!!」
ミサイルに気を取られて喜撰の接近を許してしまった。
もはや1m~2mの距離。それはまさに奴の銃剣の格好の餌食である。
「とりゃ!とりゃ!とりゃ!とりゃ!とりゃ!とりゃ!とりゃ!とりゃ!とーーーりゃーーーー!」
ザシュザシュザシュザシュ!
凄まじい突きと斬りを混ぜた離れ業。
迅速の太刀筋だけではない、一撃一撃が重いのがよくわかる。
直撃は避けられているものの風圧のみで二階堂の肌や服は瞬く間で裂け、鮮血が飛び散る。
「ぐぁあああああああ!」
「まだまだこれからだ!血がたぎるぞ!ふぉおおおおおおお!」
二階堂は喜撰から離れようと距離を取った時、ミサイルの一つがまさに目と鼻の先まで迫る!
「くおっう!」
ドゴォ―――――ン!
ミサイルが破裂し、爆風で二階堂の身体が宙を舞う。
もはや狙うなどではなく条件反射で撃っていた。
そのピストルの一発は寸分の狂いもなく数センチのミサイルの雷管に直撃し、爆ぜたのである。
そのまま落下するに見えたが寸前にローリングマシンのオートジャイロが働き姿勢制御で着地する。
「やるな二階堂、しかし!」
喜撰は素早い動きで今度は剣から銃へと切り替える。
瞬時に狙いを定め、サイトに二階堂を捉える。
(ググッ!引き寄せられるっっ)
相手が狙撃の体制に入るのを瞬時に察知したが、時すでに遅し。
バゴンッ!パーーーーン!
「あがっ!!!」
二階堂の左足のローリングマシンのジェットエンジン推力部が弾けて火を噴く。
瞬く間に緊急パージが作動し二階堂は片方のローリングマシンがスプリングのようになって弾き飛ばされた。
「あ、あが、ああああ・・・」
”くそっ大丈夫か二階堂?!おい省吾、まだ脱出路は開かんのか”
”あと少し、あと少しなんです。お願いだから急かさないでっ”
”急げ急げいそげーーーー!!”
耳から聞こえる無線にも答えることもなく二階堂は衝撃の痛みに耐え震えながら身を起こす。
眼前には喜撰が銃剣を腰に携えニヤついた笑みをしていた。
その背後にはひゅんひゅんとミサイル群が水槽で戯れる稚魚のように飛び交っている。
「あっけないな二階堂・・・所詮大和魂を忘れた”モドキ”などこの程度か」
二階堂の背後のガラス張り観客席ではちょうど古今少佐と喜撰兄が静観しており冷笑を浮かべている。
「・・・・・・・・ねーよ」
「おん?なんだ!はっきりとモノを言え!」
「・・・・してねーよ」
二階堂はしきりにブツブツ何かを呟き続ける。
「愚か者が・・・気狂いか?まあいい古今少佐、兄者、ご覧ください!二階堂が爆ぜる様を!」
喜撰が片手を上げるとミサイル群は一点に集まりだし二階堂に焦点を絞った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在―――――前!」
ミサイル群は推力を最大にし、その牙を一斉に二階堂に向け襲い掛かった。
「鼻からお前なんか・・・・相手にしてねーよ!!!」
「?!」
”いけません!!!”
喜撰兄弟、古今少佐、二階堂それぞれの目が見開かれたその時。
二階堂はガントレットコンソールを叩いて飛んだ。
瞬時に推力を最大にし、片足だけの推力ながらもカエルのように跳んだ。
ミサイルもそれを追おうと急速旋回しようと上昇しようとしたとき、ミサイル群はちょうど古今少佐たちのガラスの前に来た。
バシュッ!バァアアアアアアアン!!!
二階堂はグレネードランチャーを放ち、ミサイル群は一斉に爆発して大爆発を起こした。
一発や二発の爆発にも傷一つつかなかったガラスがその大爆発によって一気に粉砕される。
(爆発の相乗効果・・・意味のなさそうな学びも役に立つもんだな)
爆発に巻き込まれた喜撰弟が訳が分からないような顔をしながら煤を払う。
「・・・どういう‥ことだ?!あいつの”ぐれねいど”から散弾銃のような・・・」
「二階堂さんは初期装備を選ぶときにグレネード弾の中に散弾があるのを見逃さなかったのですよ。
大した観察眼、お見事です」
爆破された観客席からゆっくりと喜撰兄が姿を現した。
煤にまみれ、ところどころ焼け焦げた衣服からは煙が上がっているが気にする様子は全くなかった。
「す、すまねぇ兄貴!俺は・・俺は・・・どうすれば」
「こうすればいいですよ」
スパ――――ン!!
喜撰弟の額に針銃が撃ち込まれた。
その額に刺さった針から波のように喜撰弟の身体から衝撃が走り、マネキンのように倒れた。
「兄弟を撃ち殺しやがったっ・・・ダボ野郎が」
二階堂は上からよろめきながら地上へ降り立ち、事の一部始終を静観していた。
その時、ざわめく会場の中一部のハッチが突然開かれた。
”ひ、開きましたよ二階堂さん、急いでそこから逃げてっ”
「まてっ古今の奴がなんか言ってる」
二階堂の目の先には古今少佐と喜撰兄が対峙していた。
近距離で見る古今少佐はデカかった。
女とはいえ、2mは優に超える。
かつて学生時代女子バスケットボールをやっていた女性隊員も2m近くあったようなことを聞いたが
それを遥かに凌ぐ。
古今少佐はマネキンのような喜撰弟の骸を見るとゆっくり呟いた。
「文武両道・・・まだまだ弟には教育が足りなかったようだな」
その兄の背後からは古今少佐も現れた。
その姿は大爆発を受けたにもかかわらず煤一つついていない。
「大変申し訳ございませんでした」
「兄としてそして帝国軍人として・・・当然事の始末を付けるつもりだろうな」
「もちろんです」
そういうと喜撰兄は弟の傍らにあった反動で外れた三百年式銃剣を拾い上げた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「おいおいおいおいっ、マジか?!切腹なんてっ」
二階堂は驚愕した、切腹など時代劇にしか出ないような事を目の前で平然とやってのけるのである。
喜撰兄は恐ろしく深く、貫かんばかりの勢いで自身の腹に銃剣を突き刺すとそのまま真横にスライドさせた。
「に、にかい、どう、さん・・・た・・たのしかた・・・ま・・またあいま―――」
その時、古今少佐が何かを振り下ろした。
何か見えなかった。
が、喜撰兄の首は飛んだ。
理解できない、経験したこともない得も言われぬ恐怖が二階堂の全身を襲う。
「うううぅ・・・・あああああ・・・」
古今少佐は二階堂を見てその汚れない美しい笑顔を向けた。
”逃げろ二階堂!早く!”
「アアアアアアアアアアアアア!!」
頭が真っ白になった二階堂は開かれた出口に向かって我武者羅に駆けだした。
”まったく次から次へと・・・二階堂落ち着けっ!古今の連中は追ってこない!冷静になれ”
「うううううあああああああ・・・・」
二階堂は長い廊下をひた走りながら自身の息が切れてなおも走り続けようとした。
泣きじゃくり、顔は真っ赤でぐしゃぐしゃ、まるでたんまりと叱られ泣きじゃくる子供のようである。
”それよりもイーノさん、確かなんですか?!”
”マチガイないです!もう数分も猶予ありませン”
イーノがしきりにコンソールを叩いている音が聞こえる。
”いや、間違いない・・・これは、これはレーダー機器に全く反応がないのに目視で確認できる・・・黒船ならぬ黒鷲”
南山が眼前のモニターに映る装甲車搭載の超望遠スコープによる光学映像を凝視する。
”絶対百パーセント戦略核入りだ、マズいぞこれは・・・・”
”どうすんですか南山さん!!僕ら瞬間レンジでチンですよ!”
連絡員が死ぬ間際に呼んだ、キャンプフォスターから飛来した黒鷲。
それは紛れもなく米国空軍ステルス戦略爆撃機ノースロップ・グラマンだった。
だがそれは、奇形な形をしており次世代型B-3スペシャリストである。
”サーモバリック空爆に失敗した米国が本腰を上げたんでス!大変でス!”
”んなこた解ってる!省吾、この先であっているんだろうな!”
”はい!この先に喜撰兄が言っていた地下搬入用大規模エレベーターがあるはずです。
理解できなくても構いません、二階堂さん急いで!是が非でも!早く!早く!”
「うううううう、アアアアアアアアアアアアア!」
無心に駆ける二階堂、だがその両脇に突如としてウバメ達が現れた。
2m越えの筋肉隆々、鋼のようなシルバー一色の肌をした彼らは二階堂の横で手を巧みにL字に切り、
足をリズムよく交差させながらまるで楽しむかのように二階堂と並走する。
そしてさらにその背後にあの二人がものすごい勢いで迫ってきた。
「二階堂!お前こんなところでなにしとるんや!」
「そうやって嫌なことがあるとすぐ逃げるやろ?お前みたいなやつが異世界とかほざいてんだよ。
お前のその性根が気に食わんていう話やんケ!」
凄まじい勢いで後を追いながらも平然と会話を投げかける。
喜撰兄が言っていた内務監査部の二人。
大日本帝国兵でなく”こちら”側の人間・・・のはず。
カシャカシャカシャカシャ・・・
NO.9 THE HERMIT (隠者) 逆位置
”右舷”と”左舷”である。




